第 08 章「星辰(せいしん)」
第 03 節「千手(せんじゅ)の鬼神」
「あんたは魔法を使わないのか。
仲間に込めてもらった武器で戦うと。
そうだね、たとえ魔法の込められていない布の衣服であっても、それを作った人の心が込められている場合がある。
同じことだ。
あんたが戦う目的と、魔法を込めた仲間の目的とが一致する時に最大の力が発揮される。
そうだろう?」
「その通りだと思います。
このナックルに『トゥウィフ(衝撃)』を込めてくれたのはアンバスです。
彼は殺傷を何よりも嫌います。
彼は、私が殺傷のために拳を振るわないことを知っています。
また、私は世界のために力をつけたいのです。
そしてアンバスは、私が世界のために力をつけ、尽力していくことを心から願ってくれています。」
確かに事実だが、アンバスははっきり言葉に表されると照れくさくなった。
「いい仲間を持ったね。
・・・そうそう、せっかくあたしにLIFE戦術について質問してくれたんだ。
ファラもフィヲも分かっていることだが、なかなか口に出しては言うまい。
だからあたしが話しておくよ。
・・・シェブロンさんにはどこかで会ったのかい?」
「リザブーグでお会いしました。
博士は国王モワムエに請われて王宮へ入られましたが、メレナティレ城主がクーデターを起こし、国王の座を奪ったのです。」
「ううむ、聞いている。
新国王のカザロワ、まともな死に方はできまい。
・・・本当はあたしも分かっているんだ、あんたたちは、それからフィヲも、早くここを発ってシェブロンさんを助けに行こうとしていると。
では、“LIFE”について聞いたかい?」
「多くはファラくんから教わりました。
博士のお話も直接伺う機会を得ました。」
「幸いなことだよ。
あとどれだけの人がご本人にお目にかかれるかわからないじゃないか。
それで今、あたしがあんたに話したいことは、火・水・風・土の四属性、冷・熱・電・磁の四属性、更に、引力・振動・爆発・吸収、生滅・防衛・召喚・変化、この全てが、あんたの五体、いや“生命”に、本来具(そな)わっているということだ。
人間とは、“生命”とは、まことに不可思議な当体なんだよ。
一体何の当体かと言って、生命活動の当体だといえば別段珍しいことじゃない。
しかし、我々一人一人が、実は宇宙という大生命そのものだと言うんだ。
決して一部分ではない。
単なる構成要素でもない。
複製品でもない。
じゃあ、一人が死んだら宇宙は終わりかって?
そりゃあ、シェブロンさんに聞いておくれ。」
ヴェサは心底笑った。
皆、一緒に笑いの渦となった。
「博士の論では、大宇宙といっても一人の生命から迸る“一念”によってどのようにでも変えることができるという。
これはあたしの専門ではない。
今話しておきたいのは、魔法を使う人、使わない人、どちらにも言えることだが、16種類の魔法の力が、全てこの一身に収まっているという点だ。」
「以前、リザブーグでファラくんと出会い、森の中を徘徊する戦闘用ロボットとたびたび遭遇しました。
彼は木製の杖から鋼鉄製の無刃刀に武器を変え、戦闘スタイルも魔法中心から剣と魔法の戦法に変わっていきました。
その様子をずっと見させてもらったんです。
ある時、ノイさんが作られた『LIFE騎士団』の実戦訓練に参加した時、魔法を使ってはいけないルールの上で、ファラくんが戦うのを見ました。
間髪入れてはならない瞬間の、雷電のような一閃。
反LIFE思想に対する烈火の猛攻撃。
全ての魔法が、きっと私の中にもあると信じます。」
「魔法を身に付けることは、瞬間の生命、すなわち“一念”を鍛錬することに通ずる。
では魔力のない者には無縁の話かというと、決してそうではない。
現象としての魔法は発動しなくても、場面場面において発動させるべきものは己の“一念”に他ならないのだ。
だからあたしは武の道に生きる者に言う。
『最強を目指すなら全ての魔法を修得せよ』、とね。」