第 08 章「星辰(せいしん)」
第 03 節「千手(せんじゅ)の鬼神」
ロマアヤ軍がブイッド港より北へ進軍するにはしばらく準備が必要だ。
潜入させている兵士たちからの情報でセト軍の動向を探り、村々へ使者を立て、軍の組織編制にも力を入れていた。
そんなある日の正午前、会議や練兵がずっと続いた気晴らしに、LIFE戦術のレクチャーの一環として、ファラたちは外に出、演習を行うことにした。
主にはサザナイアが、身を軽くした戦法を覚えることが目的である。
「『ゾー』で金属の鎧にかかる重力を3分の2程度まで軽減しています。
元の素早さが引き出されると思いますよ。」
「ええ、とても軽くなったわ!」
さすがルアーズとアンバスを誘って旅に出たパーティリーダーだけのことはある。
“活人剣”を操るアスリートとして鍛え上げた全身の筋力は芸術ともいえた。
もともと彼女の剣には刃がない。
繰り出す全ての剣撃は刀背打(みねう)ちと同様であった。
「どうして無刃刀を選んだんですか?」
「これはね~、剣を教えてくれたスヰフォス先生が、わたしの戦法に一番合ってるって。
そういえばファラさんもスヰフォス先生に教わったそうね。」
「そうでした!
ルアーズさんに聞いた時は驚きましたよ。
古都アミュ=ロヴァから南下する旅の途中、ビオム村でお世話になったんです。」
「ちょうど、わたしたちが最初の修行の旅に出ていた頃だわ。
その時すれ違って、こんな形で出会うことになるなんて。」
互いに模擬演習を開始する礼をした。
ここはファラが先手を取らなくてはならない。
すーっと接近して、剣と剣を合わせようとした。
サザナイアは胸元に剣を溜め、ファラと剣を合わせるように見せて、ぶつかる時に軽く引いた。
相手の力を殺すことなく引っ張って剣を返し、反動から彼女の一太刀目を狙う。
まさに流れるようなラインが描き出された。
縦に持っていた剣を引いて横に返し、ファラの胴を打ちに行く。
慌てて剣で受けた。
次の攻撃のためジャンプしようとしたが、それは間に合わなかった。
前転気味に、水平に走ってくる剣閃を飛んで避(よ)け、地面に転がって間合いを作るので精一杯だった。