The story of "LIFE"

第 08 章「星辰(せいしん)」
第 03 節「千手(せんじゅ)の鬼神」

第 10 話
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ブイッド港から首都シャムヒィまでの道には軍事施設はなく、村が点在している。
すでに述べた通り、過去、ロマアヤとの合戦でブイッド港以北が戦場になったことはないのである。

しかしルビレムたちはロマアヤを守るゲリラ戦において、シャムヒィから送られてくる兵器の破壊、糧道の分断、行軍の撹乱等、ブイッド港を越えて転戦してきた。

彼は若きロマアヤの後継者ザンダに、最高指導者として立ってもらいたかった。
と同時に、絶対に危険のない場所から兵卒を鼓舞してもらえるように手を尽くしていた。

ようやく再会することのできたこの新しい主従は、セト国の地図を開き、印を付けながら作戦を練っている。

「村は連綿と続いていますが、まっすぐ伸びる幹線道路が生活区域と交わることはありません。
セトの軍隊は道中、村で休息をとります。
そのための宿泊施設が各所にあり、食料及び兵器の調達は全て首都からの車両によって行っているのです。」
「さすが、詳しいね!
北側で戦う時、ルビレムさんたちはどこで休んでいたんだい?」
「ザンダ様、どうか私のことはルビレムとお呼びください・・・。
我々のテントが見つかっただけでも、村人は軍に通報します。
ゼオヌール公なきあと、始めの頃は村々に隠れ家がありました。
それもゲリラ戦への警戒から使えなくなってしまい、ごく最近まで、小船で海岸から潜入したり、セト軍に潜り込んだりと、あらゆる盲点を衝いて戦っておりました・・・。」
「そりゃあ、大変だったね・・・。
すると、ここからの戦いも、ゲリラ戦しかないのかな。」
「いいえ。
セトの民衆といっても、戦争を好む者はほとんどおりません。
ファラ殿の指示で、セトの本隊が南下して来る前に、村々へ講和を申し入れに使いを出しているのです。」
「さすが、ファラくんの考えることはすごいね!
シェブロン先生がいても、きっと同じようにすると思うぜ、おれ。」

LIFE軍の会議では、サザナイアとアンバスに対するLIFE戦術のレクチャーが行われていた。
すでに多くの場面でともに戦ってきたルアーズはかなりの理解者となっている。

「剣術においてもそうですが、“LIFE”の発動は魔法を起こす時、最も顕著に現れます。
LIFE戦術とは、敵対する者も味方も、全ての生命が生かされ、悪を滅ぼし、善を助長するように振る舞うことを言うのです。
一念に“LIFE”を願う者の発動は、絶対に相手の生命を奪ったりしません。
また、自分や味方に対する攻撃が行われようとしている時も然りです。」

他人の話を聞きながら、疑問に思うことや反論があればもちろんだが、大いに納得している場合においても必ず質問するのがアンバスという青年の特長だ。

「なるほど、すばらしいお話です。
ただその中で、『悪を滅ぼし、善を助長するように振る舞う』というのは、『全ての生命が生かされる』ことと同時に可能でしょうか。」
「大事な質問ですね。
まさにここが“LIFE”の実現のためには要(かなめ)となります。
敵味方、誰一人として犠牲にしないということなのです。
単に、故意に殺傷しない、というのでは全然弱いです。
絶対に生命を奪わない、とこちらが決めていることが大前提になります。」
「はあ・・・。
ではもう一つ、あなたやあなたの師は、なぜそれほどまでに、敵対する者の生命をも守ることのために、ご自身の生命までなげうたれるのでしょうか、私が求める哲学の根本です。
ぜひともご教示願いたい。」
「はい。
その答えもまた“LIFE”にあります。
つまり、今は深い闇に覆われた生命でも、“LIFE”に生きる者の生命と、生命とのぶつかり合いによって、かならず闇は晴れ、万人に内在する“LIFE”が、誰の胸中にも湧現(ゆげん)すると信じるからです。」

アンバスは驚いて、しばし茫然としていた。
サザナイアは感激した。

先にLIFE思想を知ったルアーズは、的確な言葉は出なくとも、何度も頷いて友の顔を見、彼らの心を励まし続けていた。

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