第 08 章「星辰(せいしん)」
第 03 節「千手(せんじゅ)の鬼神」
翌朝、テンギがバツベッハに言われた時刻にムドランダ城へ上がった時、すでに極右派勢力への粛清が始まっていた。
城内いたるところに血が流されている。
テンギは人と人とが相争い、殺し合う様を見て、興奮に我を抑えられなくなった。
彼の姿に、同僚の一人が血刀を提げてやって来て、言った。
「将軍、またとないチャンスですぞ。
ニサイェバ派を全滅させるため、お力を賜りたい。」
すぐに抜剣する。
テンギの長身でも頭のつかえることのない高い天井で、存分に戦うことができた。
ガツン、ガツン。
鎧ごと敵兵を真っ二つに斬って捨てる。
強過ぎる腕の力は有り余って床石まで砕いた。
こうして何度も石を打ったため、ついに愛用の剣が使い物にならなくなってしまった。
「テンギ殿、今日はまことにおめでとう。
特別に作らせた槍だ。
大いに活躍していただきたい。」
それはホッシュタスだった。
幾つもの刃を持つ剛槍がテンギのために、荘重に運ばれてきたのである。
『おお、・・・これで大陸の二つや三つ、手中に収められるだろう!!』
常人が両手で扱う大剣を片手で振り回してなお力を持て余していた巨漢だが、彼のため特別に設計された槍は、元来の恐るべき戦闘力を10倍にも引き出すように思われた。
機敏性・殺傷性能ともにぐんと上がって、次々と集まってきた敵対勢力の戦闘員たちを相手に、100人、200人と、いとも簡単に葬り去っていった。
『ニサイェバはどこだ!?
その犬どももまとめて来るがよい・・・!!
俺は逃げも隠れもせぬぞ。』
折り重なる死体は山を成し、時に崩れ、倒れてきた。
テンギはすでに死んでいる者でも足元の邪魔になると、激しい怒りに猛り狂った。
『どいていろ、貴様ら、家畜以下め。
生きても死んでも、邪魔をするだけの能なしどもが・・・!!』
城内の異変に、家族を守るため駆り出されてきた者もいる。
その躯(むくろ)を、彼は牛馬の蹄(ひづめ)にも増す殺傷力で踏みつけては、頭蓋骨まで砕き、蹂躙した。
残忍極まりない戦闘狂だが、鼻を衝く凄惨な死臭に吐き気を催したらしく、一面に炎を放ったり、遺骸の山へ向けて爆破を行ったりと、事態は最悪の形で終息を迎える頃に来ていた。