第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
鋭い剣閃が飛んできた。
コダリヨンは身でかわすと、剣を捨て、平手でラゼヌターの頬を叩いていた。
「分からぬか、目を覚ませ!
保身と安逸にしがみつくな!
もやは侵略の大義名分などというものは、彼らによって、完全に打ち砕かれているのだ!!」
だが、さすがに総大将の側近ともなると、これくらいでは折れなかった。
今度は鋭く剣先が伸びてくる。
武器を捨ててしまったコダリヨンは、これで死ぬなら本望だと考えた。
しかし、駆けつけたルビレムは見逃さなかった。
バキンッ。
突きの一撃に対して斜めに振り下ろされたルビレムの剣閃は、ラゼヌターの剣を真っ二つに破壊して、彼女の体を巻き込むように旋回、左腕で盾からの強打を繰り出していた。
ラゼヌターは突き飛ばされて後ろに倒れ、悔しさのあまりヒステリックを起こしかけた。
「くそう、剣の誇りを砕かれて、おめおめと生きてゆくことはできぬ!
この場で死んでくれよう、人殺しどもめ・・・!!」
こう言って自ら舌を噛み切ろうとしたが、突然、目の前で爆発が起きて悲鳴を上げると、後ろに倒れて気絶してしまった。
インツァラを放って彼女を救ったのはザンダだった。
「あぶないあぶない。
早くおねえちゃんたち来ないかな。
ロマアヤ兵も、味方になったセト兵も、確かに頼もしいけどさ、“LIFE”の力が足りなくて困るぜ。
こりゃあ、教える側の人手不足だね。」
一回りも二回りも大きく成長したザンダの笑い声の向こうから、ルアーズたちが駆けてきた。
「ザンダくん!」
「へへっ、やっと来たか。
ファラくんは?」
「あの子ったら食べ過ぎて、私より早く走れないのよっ。」
戦場に、明るい笑いが弾けた。
剣のやり取りを愛するサザナイアは、もう一人の女将軍メッティワを見つけて、なんとも嬉しそうに戦っている。
この時すでにリダルオから最初の援軍がセト軍をほとんど平らげていた。
そしてついさっきまでここにいたルビレムが、敵の総大将デッデムの元へ、脇目も振らず走っていくのが見える。
「すごい騎士だ、これまでロマアヤが生き延びてきた理由がわかるね。
あの大将も、味方になるのかな?」
「いけない、ルビレムさんだけじゃ心配だわ、・・・あ、って、力の問題じゃなくて、デッデムの生命が危ないってこと。」
ムゾール=ディフが寄ってきた。
「ザンダ様、あ奴こそ、父君の仇なのです・・・。
わたしはこの手で討ち取りたい衝動を抑えられませぬ。」
「ゼオヌール公、・・・いや、父さんも、シェブロン先生を知っていたんだろう?
だったら尚更、ロマアヤで反“LIFE”を行(おこな)ったらダメだ。
あいつが心を入れ替えるまで、軍事侵略の非を咎めて、いつか分からせればいいじゃないか・・・。」
ザンダの頬に涙が伝った。
やがてファラとフィヲが到着したため、少年は両目を拭って、再び快活な表情を見せ、大きく手を振りながら二人の方へ駆け出していた。