第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
まだ戦意はあった。
巨漢のズンナークは、自分より一回りも小さいルビレムに片手で持ち上げられている。
ゴン、と鈍い音がして、ズンナークの重たい蹴りがルビレムの腹部に当たった。
これはダメージと成らず、ただ抵抗の意思を示した。
続いて、目を血走らせ、両手でルビレムの頭をつかんだズンナークの頭突きが落ちてくる。
わずかに反れて、ガツンと当てられたが、同時に右手の剣がズンナークの胴に、先にも劣らない強突を撃ち込んでいた。
ルビレムの左側頭部から血が滴った。
対するズンナークは起き上がれない。
倒した相手を睨み付け、くらくらしながら、懸命に意識を保とうとする。
ズンナークが地面に向かって言った。
「貴様ごときに敗れるとは・・・!!
ロマアヤの騎士でなければ容易に生命を取ったであろう。
敵国の“人道主義”とやらで生き長らえるくらいなら、オレは死んだ方がマシだ・・・。」
ズンナークはよろけながら四つ伏すと、腰から短刀を抜いているのが見えた。
自ら果てようというのだ。
こうした場合、魔法使いファラならば「キュキュラ(総力)」で魔法を放つだろう。
ルビレムは意のままに魔法を操ることはできないが、その時の判断はまさしく「キュキュラ」だった。
そのまま倒れてもおかしくない状態にありながら、自分の方へ向けられたズンナークの腰目掛け、半回転、巻くような強撃を与えたのである。
「なんと身勝手な男だ!
俺はお前が死ねぬよう、一生その恥を晒し続けて、笑いものにしてくれよう!!
敗れることが恥なのではない。
過つことが恥なのではない。
自ら信じた行動に、最後まで責任を持たず、逃走することが恥なのだ!!」
こう言ってズンナークの横面に一発、殴打すると、後から攻め上がってきた味方の兵らに担ぎ助けられ、ルビレムは意識を失った。
大きな目標だった「リダルオ南征衝」はついに落ちた。
ロマアヤ公国を滅亡まで追い込んだ、最も忌むべき要塞である。
今、ルビレムは負傷で倒れたが、新旧ロマアヤ兵の手で、確かにゼオヌール公以来の「公国旗」が打ち立てられた。