第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
大慌てで出撃準備を整えたムゾール=ディフは、新ゼオヌール公の誕生に感激の涙を流した。
その喜びは周囲へ、やがて全軍へと伝わった。
ファラの兵120に対して、ザンダは150の兵を率いる予定だったが、ムゾールの兵200を合わせて350の陣容となる。
更にムゾールが、ザンダを護る「親衛隊」を召集すると、負傷者も含めて100の兵が志願した。
まっすぐ南下してくる敵2000の軍に、ロマアヤの精兵450であたるのだ。
これほどの軍隊を指揮する能力は、ザンダにはまだない。
そして自分がゼオヌール11世と呼ばれようとも、長年に亘る辛苦を忍んでこれまで持ち堪(こた)えてきた民の上に立つなど、そんな資格はないと思った。
「ドガァ、おれにはお前だけが頼りだ。
いつも通り、駆け抜けてくれよっ!!」
百獣の王の咆哮が鳴り渡ると、「魔導騎士」の鎧に身を包んだザンダは北を目指して飛び出した。
どんな戦車も馬車も、ドガァの機動力にはかなわない。
ムゾール=ディフはザンダの親衛隊を率いて「騎馬部隊」を形成し、その後を追ったのである。
ザンダの出撃よりも一足先に北東へ行軍していたファラたちは、すでに2つの敵部隊を撃破したが、今まさに第3の部隊と交戦中だった。
リダルオ南征衝の大将はズンナークといって、智勇に富むが彼自身は剛の者である。
右将リルー、左将オオンという、二人の女剣士を部下としていた。
大将に先立ち、兵500が攻め下る。
ファラの目指すリダルオ奪取に向けた、一大決戦が始まった。
ロマアヤへ来てからルアーズの奨めで体力をつけるようにしてきたフィヲだが、ファラが全力を出して戦う場合、その動きにはとても追いつくことができない。
先の2つの会戦ではフィヲに助けられて魔力も体力も温存できたファラは、彼女に感謝しつつ、こう言った。
「ここからは君を省みる余裕がなくなるだろう。
自分を守ること、できるかい?」
「はい、心配しないで。
後ろから、できるだけ援護します。」
「フィヲ、信じている。
ぼくも敗れはしないからね。」