第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
ブイッド港からの軍3000は、デッデムを総大将として、ロマアヤの駐留地「ジ・ヅール堰」「旧公国府」へ向けて南下、更に戦局の危ぶまれる「リダルオ南征衝」へも押し寄せていた。
ジ・ヅール堰に隣接する「マサリム廠」には、すでに出撃中の戦車30に加えて、あと20の戦車がある。
これらが全て戦場に出たとして、攻撃力を有さない戦車ではどれほどの時間が稼げるか。
いずれにせよ、3000の兵は分散し、ロマアヤのそれぞれの陣営に至るであろう。
ザンダはあまりに多くの好意に取り巻かれたため、少し戦闘的な本能が鈍っていたが、戦場からの報告を聞きながら、もはやじっとしているのは限界だった。
常時、兵を近くに置き、彼自身が矢面には立たないでほしい・・・そんな老戦士の願いは、たとえ衝突することになったとしても跳ね返さなければと決断する。
ドガァに鎧を着せ、自らも戦(いくさ)支度を始めた彼に、ムゾール=ディフは狼狽して言った。
「ザンダ様!?
我々がお護りします。
ご心配には及びません。
どうか、剣をお収めください。」
「いいや、おれは行くよ。
ムゾールさん、もしもおれを止めたいのなら、ここで勝負しようじゃないか!
ほら、あんたも剣を抜きなよ。
そのかわり、おれは魔法を使うからなっ!!」
「そ、そんなことはできません。
あなた様は・・・。」
ザンダも頑固だが、ムゾールもここは一歩も引けないのだ。
そしてついに、老戦士は、言いたくて言いたくて我慢してきたことをついに明かしてしまった。
「ザンダ様、あなたは、我々ロマアヤの民にとって、ただ一人のお方。
ファラ殿は言われました。
あなた様もシェブロン先生のお弟子。
まずはこのイデーリアで、弟子としての戦いを、と。
しかしこのムゾール=ディフは、一日も早く申し上げたかったのです。
『ゼオヌール11世』、それがあなたのお立場なのです・・・!!」
ここへ来てから何度か目にした、ゼオヌール公と優しいリュエンナ妃の肖像。
シェブロン博士について旅をしていればきっと会えると信じてきた最愛の父と母は、この地で生きたのだ。
少年は全身の血が騒ぎ出すのを感じた。
戦闘の本能が沸き立ってきた。
なればこそ、目の前の老戦士を押し倒してでも戦場へ急がなければならなかったではないか。
「おれがゼオヌール公の息子なんだな?
それなら尚更だ!
3000だろうが一万だろうが、シェブロン先生の弟子が、侵略国家の軍事弾圧に屈すると思うのか?
心配だったら、あんたも来て一緒に戦えばいいじゃないか!!」
もう誰もザンダを止めることはできないだろう。
彼の全身に漲るロマアヤの血、魔法の血は、激しい心臓の鼓動とともに、その小さな体を火の玉のように燃え上がらせた。
自らの生命を燃焼させて、実に全ての生命を慈しみ育もうとするその姿、その心は、大宇宙へと通ずる小宇宙の“太陽”そのものだった。