第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
ロマアヤ軍はファラたちを迎える前まで最終防衛地点だった「ジ・ヅール堰」にも兵を配備していた。
もしここまで攻め込まれるとすれば、それは旧公国府を奪回されたことを意味する。
だが、過去に落とされたことがないという誇りの他に、ここへ1部隊を送る目的があった。
この度の戦役に、「ジ・ヅール堰」と北に隣接する「マサリム廠(しょう)」を機能させようというのだ。
軍需工場の体(てい)を成す「マサリム廠」には、長年のゲリラ戦で得たセト軍の戦車など、大型の兵器も含めて数多く収容され、改造されていた。
老戦士ムゾール=ディフも騎士ルビレムも、ゼオヌール公がシェブロン博士と約束して全軍に徹底させていた、“殺戮のない抗戦”という主義を、今でも固く守り通している。
そのため、兵器の殺傷性能は破棄され、防衛性能や機敏性が高められた。
火器や爆撃・打撃に強いボディで、敵軍に突っ込み、分断し、時間を稼ぐことができる。
マサリム廠から軍港ブイッドへ、また旧公国府に攻め下る敵軍の撹乱に、30の戦車が出撃していった。
一方、散在するキャンプからのゲリラ攻撃は、独自の連絡によって北のブイッド港近くまで指示が行き渡っていた。
普段は不意を衝いて兵器を破壊したり、奪い去ったり、敵軍の進撃に罠を張ったりと工作してきたが、小細工の効かない全面戦争を前にしては動き方も変わる。
そこで打ち出されたのは、敵軍の数が多いことを利用した、スパイ潜入による撹乱作戦である。
従来のゲリラ部隊の兵らは、敵兵と同じ身なりをして、殺傷を行わない味方軍との戦闘で、セト軍に不利となる挙動を取るのだ。
すなわち、情報のすり替え、罠への誘導、重要人物の捕縛、軍組織単位での乗っ取り、など多岐に亘(わた)った。
ルビレムが別の作戦を展開していることから、旧公国府の兵は一切、ムゾール=ディフに委ねられている。
彼は若きゼオヌール家の後継者・ザンダが勇敢であることを頼もしく思う反面で、3000もの大軍を相手に、もしものことがあったらと、少年のプライドを傷つけぬよう、様々な進言をした。
「ザンダ様。
鎧には悪しき魔法を寄せ付けぬ様々な禁術が施してございます。
また、物理攻撃に対しましても、最上級の強度を誇ります。
しかしながら、戦場にあってはどうか兵を近くに置き、あなたが危険の矢面には立たれませぬよう、重ねてお願い申し上げます・・・。」
少年はまだ、ゼオヌール公と自分の関係を知らされていない。
なぜ、この老人は自分のことを「様」付けで呼び、ファラには示さない敬意を表するのだろう。
ともあれ、どのように隠そうと、親子・眷属のつながりをいつまで知らせずにおけるものか。
12歳のザンダは、ロマアヤという民がきっと自分と関係の深い人たちであることを意識し始めていた。