第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
ロマアヤの興亡を賭けた一戦が始まった。
ファラはフィヲを伴って120の兵を率い、北東へ、心地よい速度で進撃する。
相手もこちらの兵力を計算の上、まずは360の連隊を差し向けてきた。
双方が睨み合い、まだ誰も攻勢を取らない段階、つまり1キロメートルほどの距離を隔てた状態で、ファラは一人、敵軍の只中目掛けて駆け出した。
ファラはフィヲの同行を制止したが、フィヲはファラの後ろに付いて走った。
ちらっと振り向きながら軽く微笑んだファラは、これ以上彼女の意思による行動を妨げるのはよそうと思い直す。
前方から砲撃があって、砲丸が大地を打ち砕いた。
それは休む間もなく降り注いだ。
ファラはロニネを張ろうとしたが、すでにフィヲが立ち上げてくれている。
この判断は彼単独で戦う場合よりも早かった。
長い距離も、平地のため眼前には敵軍が見える。
ここでファラは、両軍を奮い立たせるために大音声(だいおんじょう)を発した。
「本日、この会戦を最後に、愚国セトの砦リダルオは、ロマアヤの手に帰す。
異議ある者は相手となろう。
・・・総勢で来い!!」
広い戦場に、少年の声はよく響き渡った。
いきり立ち、敵軍が一斉に躍りかかる。
以後、大砲は発射されることなくその場で爆発し、飛んでくる矢は進路を捻じ曲げられて地面に突き刺さった。
ファラの強力なトゥウィフが地平に広がり、威力を増しながらサーッと走っていったかと思うと、敵兵らは足元を掬(すく)われたように、前へ、後ろへ、転倒した。
そこをファラが駆け、フィヲが付き従った。
一度倒れた兵は、二度と自力で起き上がれない。
フィヲのゾーがかかって身動きできないのだ。
後続のロマアヤ兵・元セト兵らは、味方ながら恐ろしい騎士だとしばらく立ち竦(すく)んでいた。
だが、今朝、あの少年に言われた通り、倒れている敵兵に声をかけつつ前進、従軍を誓う者には手を差し伸べ、助け起こしていった。
この時フィヲがかけたゾーは数分で切れる。
効力はそれで十分だ。
ファラも驚いたことに、なんと魔力の節約が上手い娘か。
ロマアヤの若き指揮官は1キロ隔てた場所から敵軍の只中を、一直線に駆け抜けていったように見えた。
だが彼が通り過ぎた後、大セト国の兵360が、1人も残らず無傷のまま、倒されてしまったのだ。