第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
旧公国府キャンプでは、朝食後のLIFEの会議で、真剣に参戦の訴えを見せる少女フィヲの姿があった。
「いけないよ。
危険な術士との、一対一の応戦とは違うんだ。
四方八方、上からも、時には足元からだって、生命を奪うための攻撃が飛んでくる。
それが戦場なんだ。
君の力は素晴らしい。
その力を、戦場に持って行きたくない。
なぜなら、ここを護る全てのロマアヤの人たちに君が必要だからだ。」
「いいえっ、私も行きます。
ファラくんは感じないの?
北の方から、大勢の兵隊が来るのを!
昨日の戦闘の何十倍も大変になる。
あなた、一人でそんな力が出せる?
私がいれば、どんなに相手が多くても、強くても、力を引き出してみせるから・・・!!」
むきになって顔を真っ赤に紅潮させながら、一生懸命に話すこのようなフィヲは、今まで誰も見たことがない。
唯一、彼女の同行を願っていたザンダでさえ、当惑してしまった。
「おねえちゃん、セトの大軍が見えるのかい?
もし、それが本当だったら、おれは夕べ言ったことを引っ込めなきゃならない。
もしものことがあったら、先生に申し訳が立たないよ・・・。」
「それはザンダの慢心だわッ!
私よりも戦力になると思って、うぬぼれているのよッ!!
見ていなさい、私がいなかったら大変だったって、きっとみんな言うんだから!!」
ファラもザンダも、これ以上彼女を興奮させるのは可哀想に思えてきた。
そして意見の異なる3人に共通するのは、ヴェサに心配をかけたくないということだった。
イデーリアへ渡ってから殊におとなしくなってしまったこの老婆は、最初、呆気に取られたように動揺を見せていた。
それが、フィヲの心からの願いを聞くにつけ、反対する気持ちが次第に遠ざかっていくようだった。
彼女は短い夢を見ていたのだ。
修行の旅も50年になる頃、すでにLIFEの一行に加わっていたヴェサは、シェブロンに案内されて、まだゼオヌール公が健在なロマアヤの地を訪れていた。
大セト覇国とロマアヤ公国は相争っているが、今も昔も変わらず、両国の民に信仰されている「大陸の護り神」の祠が、各所にある。
伝承では、ある時は女神、ある時は男神となって現れ、人々の迷いを正しく導く神だという。
生まれたばかりのフィヲは、その祠の前に捨てられていたのだ。
ヴェサにとって、民間の信仰などどうでもよかったが、そうした伝承と相俟(あいま)って、すくすくと育つ孫娘のような存在の中に、何か不思議な使命を感じてきた。
今、年老いて日に日に老衰していく彼女の耳には、孫娘的存在のフィヲからの声としてではなく、むしろ目を瞑った時に少女の存在からいつも発せられてきた“神聖な声”として響いたのである。
「フィヲの願いはあたしの願いだ。
この子には偽りというものがない。
今言った通りだろう。
ただ、・・・危ない時には、この老婆の、ただ一つの希望と思って、どうか生きて帰しておくれ・・・。」
すっかり気の弱くなったヴェサと互いに抱き合って涙する彼女の姿を見て、ファラはフィヲの力を借りて戦う覚悟が決まった。