第 08 章「星辰(せいしん)」
第 02 節「烈日衝天(れつじつしょうてん)」
イデーリア大陸の空を厚く覆い尽くした暗雲に、烈々たる陽光の兆しが差し込んできた。
だが、依然として闇を棲みかとする悪鬼、魔民、魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもが人心を分断し、国土を攪乱(かくらん)し続けていた。
その日、大セト覇国の首都シャムヒィは、暴君の激怒に揺れていた。
元帥(げんすい)ニサイェバの声が荒々しく震えている。
「愚鈍にしてッ!
低劣なるッ!!
蛮族のッ!
・・・、・・・、くくっ、首ッ!
はっ、早くしろッ!!」
誰に命令されたか分かりかねる内容だったが、身に当たる者といっては国防大臣のバツベッハ以外にはなさそうである。
彼はすでに、ニサイェバの狂気を恐ろしいとする感覚が麻痺しており、半ば失笑をこらえながら登壇した。
「暴徒は周辺の住民を巻き込みながら北上中の模様。
リダルオで迎え討ちますが、この際、再起できぬよう殲滅(せんめつ)しておくのがいいかと。
首都から全軍を派遣し、大陸の南西端まで攻め落とす考えです。」
全場がしらっと黙り込んで、元帥の応答を待っている。
「わわっ、が、と?
いむ!
さん!!
ど、ごら!?
にまい、ふ!!」
これには口を押えて腹を痙攣(けいれん)させる者がほとんどだ。
ただ一人、ニサイェバの滑稽さを解(げ)さないのか、将軍テンギが立って話し始めた。
「大陸の内乱を狙って、他国が攻め寄せるかもしれぬと。
異議ある者の考えはそこだろう。
首都の本隊を動かすのは俺だ。
全部連れて行ったりはしない。」
彼は胴が異様に長いことから、軍の上層部と一部の士卒らに、「ヘビのような奴」と嗤(わら)われていた。
それだけではなく、常人の何倍も太い腕と脚を持っている。
戦場を駆け抜ける時の恐るべき怪力と動作の素早さからは、悪意がない者でも、あれは「大蛇の化身」ではないかと目を疑わざるを得ないのだ。