第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
少年ザンダはフィヲがいればもう大丈夫だと思った。
バッタリと倒れて腕枕すると、フィヲに言った。
「おねえちゃんがファラくんの近くにいてくれれば、おれは安心して戦える。
・・・んでも、ばあちゃんを一人にはしておけないか。」
「みんなでいい方法、考えよう。
私だって先生の教え子だもの。
ほらザンダ、ご飯食べて。」
ドガァは戦闘を終えて好物の食肉を喰らいながら、とても誇らしく、満足そうな顔をしている。
この親友のライオンが元気なだけで、ザンダは元気が出た。
本当は小さな体もくたくただったことだろう。
強がりな性格が手伝って跳ね起きると、フィヲが持ってきた食事についた。
「ファラくん、・・・私の力をあげるわ・・・。」
フィヲが魔力を消耗しながらファラの疲れを癒していく姿は、ザンダにとって神秘的に思われた。
シェブロンやヴェサに見出された、異質の計り知れない少女の魔力は、緑色をしている。
それは、直接浴びるファラだけでなく、近くで見ているザンダとドガァの心身をも癒してくれるのだった。
同じ日の夜半、旧公国府からまっすぐ北に位置する軍港ブイッドは、いつになく物々しい空気に包まれていた。
出撃準備を進めている者、兵舎から兵舎へ駆け回る者など、近頃は旅人の姿もはたと見られなくなって、セト兵一色に染まっている。
そんな中、3人組の兵士が銃を抱え、南方を指して出かけていった。
時刻はまもなく日付が変わろうという頃である。
全員、硝煙から目を守るためのゴーグルを着け、頭部を覆っていた。
背の高い兵は女らしい。
これと同じくらいの背の男が隊列の前に構えている。
周囲をキョロキョロと見回す3人目も男なのだが、どことなく不慣れなように思われた。
ウズダクからの船で港へ降り立った二人の兵は、町中で合流した先頭の兵とともに、何か極秘な命令でも帯びているのか、敵軍が潜むという森へ姿を消してしまった。