第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
初戦で大勝を博したロマアヤ軍の兵士たちは、互いに数年来忘れていた明るい表情で引き上げていった。
LIFEのリーダー・ファラが、一人の犠牲も出さないと決めて戦ったため、負傷する者はいたが、戦死は一人もいなかった。
敵方を見ても明らかなように、人間の組織である軍隊は、誰が指揮するかによって、その性質も、力も、全然異なってくるのだ。
リザブーグ城下でLIFE騎士団の皆がくれた鉄の鎧はすでにボロボロになってしまった。
ファラ自身はそれと同じくらいボロボロになって帰った。
しかし、表情は皆のそれよりも飛び抜けて明るかったのである。
剣に生きる者として、その将として、自分が盾となり剣となって全軍を勝利に導いたことほどの誉れはない。
「君にはいつも助けられるなあ。」
ファラは、ライオンのドガァがいいと言うので、ザンダの後ろに乗せてもらっている。
もう動けない体力は、自分より5つも年少のザンダに寄り掛かるしかなかった。
「・・・う~ん、おねえちゃんと一緒に走ったら?」
ザンダは今、完全に身を任されて、反抗されるおそれのない相手をからかい、面白がっている。
「フィヲは毎朝走っているね。
ルアーズさんが薦めたんだよ。」
そのルアーズも、先に騎士ルビレムが潜入している軍港ブイッドへ合流できただろうか。
陸軍大将デッデムのいる港は最も危険な敵地と言える。
ファラはルアーズの戦闘力もルビレムの武勇も疑わないが、今一番の心配といえばそこだった。
「本当はおねえちゃんも本ばかり読んでるのが性(しょう)じゃないんだぜ。」
こう言ってザンダはげらげら笑った。
「うん、ぼくもそう思う。
フィヲの内面はとても勝ち気だよね。」
自然と、からかう笑いが微笑に変わった。
ザンダは、出会ってからまだ日は短いのに、ファラがよくフィヲのことを分かっているなと思ったのである。