第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
魔法を知らない原始的な軍隊を相手に、どこまで度肝を抜けるかが勝負である。
ロニネを張って高く飛び上がったファラは、敵軍のど真ん中へ飛び降りると、炎を舞い上がらせながら剣を振るった。
「セト国の悪逆を知らないか!
悪しき剣よ、捻じ曲がれ!!」
一撃、一撃、敵兵ら一人一人の、何が間違っているか、声を浴びせかけながら斬りに斬った。
無論、ファラの剣は無刃刀である。
一太刀ごとに電撃が迸り、火花が散り、爆風が巻き起こった。
壊乱するセト軍を、後方に控えていたロマアヤ兵50は追いに追った。
「惰弱な兵どもめ!
海へ飛び込むか?
この場で死ぬか?
その下手な剣、二度と振るうな!!」
ファラの強力なズーダで刀身の溶け落ちた不恰好な武器を握り、あるいは投げ捨てて、敗走は続く。
大セト覇国の誇りも、軍での地位も、ずたずたに破れ果てた憐れな兵らは北へ、北へ、中には泣きながら奔る者もいた。
転んで仲間に踏みつけられ、起き上がれなくなった者たちが数知れず、草原を埋めてしまった。
「生命を奪わない限り、戦意を失くすまで、どんなに叩いても構わないッ!」
先頭を駆ける少年の叫びに、続くロマアヤ兵は、数は少ないが、雄々しい勝ち鬨を轟かせている。
「ほらほらッ、役立たずの武器を捨てろ!
こんな最低の国、早く見限って、家族の元へ帰るがいい!!」
今までなんて愚かな侵略をしてきたんだろう。
敗れた兵らの大半が、大地にうつ伏せ、または空を仰いで、痛恨の思いを極めていた。
向かってくる者に容赦なくファラは飛び掛った。
一撃で兜を割り、盾を突き破ると、なおも戦いを挑んでくる者はなかった。
強撃を被って、総崩れの部下たちをその場に置き去りにし、自分かわいさに戦場から離れようとする軍人の姿も目立った。