第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
セト国と旧ロマアヤ皇国の国土比はイデーリア大陸を3対2ほどに分けていたが、セトの侵略によって国境線は南下、ゼオヌール家で栄えたロマアヤの地まで迫った。
ゼオヌール10世とシェブロン博士の出会いをきっかけとしてロマアヤは皇国を廃し、公国、すなわちゼオヌール公の誕生を見ると、それまで王家に頼っていた人々は初代魔導騎士である君公とともに勇敢に戦った。
けれどもセトの圧倒的な兵員と、兵器による軍事力を前に戦線は後退を余儀なくされる。
君公ゼオヌールの戦死を悲しむ間もなく、遺された民は、まさにセトの手に落ちようとするロマアヤ城へ大砲を撃ち込んで自ら破壊。
愛する古城への仇敵の侵入を拒んだのである。
そのため、現在も旧公国府(ロマアヤ城跡)は廃墟となっている。
時にセトの軍靴がこの府を踏むと、家臣たちは猛然と反撃に出た。
真っ向から戦えば勝ち目はない。
執拗なまでのゲリラ戦を繰り返したのである。
そして過去、一度も破らせていない防衛地点があり、ロマアヤの人々はこの地を「ジ・ヅール堰(せき)」と呼んでいた。
ファラたちは「ジ・ヅール堰」を南から回って「旧公国府」に至り、まずはそこから北東へ、敵の拠点である「リダルオ南征衝」を攻めることにした。
民が最も勢いづくのは「旧公国府」の奪回であり、彼らを再三苦しめた「リダルオ」を落とせるかどうかが戦況を大きく左右するだろう。
家老ムゾール=ディフは、軍港ブイッドにいるという敵軍の将デッデムに宛てて手紙を書いた。
これを、騎士ルビレムが港へ潜入して敵陣へ投げ込んだ。
旧王家の直系、ザンダを得た彼らに恐れるものはなかった。
事実上の宣戦布告は成り、北からよりも南から、威勢のよい軍鼓の音が、高らかに鳴り始めたのである。