第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
敵方の分断作戦によって、名君ゼオヌール公とリュエンナ夫人が戦場に倒れてから、ロマアヤの民はイデーリア大陸の南西の端まで追い遣られた。
守るべきものを失った騎士ルビレムは、君公の盾となれなかったことを恥じ、自らの生命と引き換えにセトの拠点を一つ落としてみせると言った。
その時、旧王家の家老ムゾール=ディフはルビレムをたしなめてこう語った。
「大公が生命をかけて護られたロマアヤを、お前は見殺しにするのか!
イデーリア統一のその日まで、戦いに身を置くと決断された大公は、彼のシェブロン博士が言われた通り、生きる意志と信義を交わす意思の途上で倒れられたのじゃ。
残された我らは、ゼオヌール様、リュエンナ様と同じ意思によって立ち、最後の勝利を決しなければならん・・・!!」
ルビレムの肩を両手で揺すり、落涙で髭(ひげ)を濡らしながら、目を見開いて訴える老戦士は、他の誰よりも悔しい思いだったにちがいない。
先代ゼオヌール9世の時代からロマアヤの剣となり盾となって戦い抜いた彼も、今は老いて戦闘に立つことを許してもらえなかった。
そのかわりに、彼は一人の赤ん坊を託された。
ザンダ=ゼオヌール。
つまり、幼くして魔法革命家シェブロンの弟子となった少年のことである。
古代魔法グルガの解放、リザブーグ王国でのLIFEの抵抗運動、魔法使いムヴィアの戦いと魔性の崩壊。
シェブロン自身、生命に及ぶ重傷を負っていた。
それからしばらくして、各国に敵がいる博士は、亡命また亡命の旅の最中、ロマアヤを訪れた。
彼はゼオヌール公とその妻リュエンナの墓前に立ち、深く頭(こうべ)を垂れ、胸に手を当てたまま、その死を悲しんだ。
ムゾール=ディフもルビレムも、シェブロンが置かれている立場をよく理解していた。
彼は世界にとってなくてはならない存在であり、この地の抗争がいかに苦しくとも、長くは引きとめられない。