第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
ロマアヤ亡命国は新しい戦力を得た喜びに溢れ返っていた。
全身を目立たぬ土気(つちけ)色外套で覆ったファラたちの一行が、ようやく民の待つ集落まで辿り着いたのである。
世界の東端・イデーリア大陸も、隣接するワイエン列島の東側を支配する「ウズダク海軍」が寄港するド・ジャールで、義援兵を募る窓口となっている男に会うことができた。
彼は騎士ルビレムという名で、10代からロマアヤに仕えた忠臣の一人だ。
以前、ルアーズが2人の仲間とともに、彼を介して大陸南西端にある亡命国の集落に滞在したことがあった。
ルビレムを見つけると、コートを着たままルアーズがすれ違うふりをして歩み寄り、フードをちらとめくって顔を見せながら、片目をつぶってみせた。
亡命騎士の彼は眉も動かさずに目配せだけすると、少しずつ時間をずらして、廃屋かと思われる宿に合流したのである。
傾いた電灯がいかにも亡国の民の寄宿といえようか。
だが、もし憲兵が入ってきたとしても、あまりに粗末な佇(たたず)まいに、ボロをまとった人々がいるため、雨風を凌ぐ憐れな乞食としか思わなかっただろう。
とはいえ、潜入者を嗅ぎ回っている連中はかなりいる。
あまり堂々と会議のようなこともできない。
支えの悪いテーブルには、カモフラージュのためであろう、古びたカードゲームの札とダイスが転がっていて、数枚の銅貨が床まで散らばっていた。
空気を察して、ザンダも小声で話すようにしていた。
「なあ、ドガァはどうするんだい?」
まだ少年は知らないが、騎士ルビレムはザンダに対して、最上の礼を取った。
「お、おにいさん、いいよ、そんなにしてくれなくたって。
おれ全然、修行中の身だぜ?」
寡黙な騎士を演じているルビレムは、時々顔を見せないように後ろを向き、具合でも良くないのか、体を震わしているようだ。
結局ドガァは目立つというので布をかぶせ、行商人に扮した他の仲間が車に付けて別ルートで南下することになった。