第 07 章「展転(てんでん)」
第 03 節「古都の防塁(ぼうるい)」
「ウオオオオオーーーーーーーーーー!!!」
「オオオウオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!」
もうすでに勝つと決まった民衆の勢いは、押し寄せる悪魔結社マーラの進軍を飲み込んでいった。
男性も、女性も、大人も子供も、全員が緑色の鎧を着て、胸に「LIFE」のエンブレムを付けていた。
黒ローブを着た術士たちは、振り絞るようにして魔法を撃ちまくってきたが、市民たち自身の手による「魔法無効の防具」の方が強かった。
男たちは術士の凶器や杖などを奪い取り、女たちの手に渡していった。
刃物は戦場の外側へ、外側へと運び出され、殺傷のために使われることはなかった。
三人ずつ並んだ列が何本も、遠くアミュ=ロヴァまで伸びており、捕縛された黒ローブの術士たちが次から次へと頭の高さまで担ぎ上げられ、人の手から手へ、運ばれていった。
馬を飼っている者は、敵の馬車から馬を助け出し、町へ避難させた。
この「流血のない戦場」を、LIFE騎士団の各部隊が分け入って凶悪な術士たちと戦い、取り押さえては捕縛していった。
転倒した車、戦意を失った術士らの、惨憺(さんたん)たる敗戦の様を見て、憎憎しげに天を睨んでいる男がいた。
古代魔法学者ケプカスである。
近くには魔具職人ハイボンがいた。
「おのれ、役立たずどもめ!
レボーヌ=ソォラの民、ともどもに焼き尽くしてくれよう・・・!!!」
しかし、ケプカスの瞋恚(しんに)の青黒い炎を、ずっと前から追跡してきた者がいる。
それがタフツァだ。
「ケプカス!
僕は、お前にだけは手加減するつもりはない。
生命(いのち)燃え尽きるまで戦おうじゃないか!!」
振り返ったケプカスの表情は、彼の魂を地獄へと宿命付けているところの、死に至る病毒によって、まるで緑色をしており、血走った目は真っ赤になって吊り上っていた。
「うぉぉぉおおおのぉぉぉれぇぇぇぇぇぇっっっっっ・・・・・、シェブロンめっっっ!!!!!」
とっくの昔に崩壊して、様々な動物の筋肉などをつなぎ合わされたケプカスの肉体は、恐ろしい形状に隆起していた。
タフツァは振り下ろされる燃え盛った杖を皮革の手袋で受け止めると、ぐいと引き寄せ、相手の胸のど真ん中へ、足裏から強蹴を叩き込んだ。
ゲホゲホと咳に倒れるケプカスを尻目に、タフツァは素早くハイボンの横を捕らえていた。
長く頑丈な杖で喉元を押えられ、ぶるぶると震えて身動きも取れないハイボンに、タフツァは言い放った。
「もう合成獣は懲り懲りだ。
僕個人としては、お前の顔など、二度と見たくない・・・!!」
少年ウィロが馬車を付けて、巡査隊の4人がハイボンを取り押さえると、そのままアミュ=ロヴァへ向けて出立していった。
「さあ、ケリをつけよう。
起きろ、ケプカス、いや・・・ヨムニフ!!」
首元を掴み上げられ苦しみ喘ぐその男は、17年ほども前、シェブロンとLIFEを裏切って、魔の国王に売り渡した張本人、すなわちヨムニフその人だったのである。