The story of "LIFE"

第 07 章「展転(てんでん)」
第 03 節「古都の防塁(ぼうるい)」

第 20 話
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飛び道具を自在に操るノッグルは、鏑(かぶら)や爆竹の付いたダーツ状の武器を、発動間際の術士に向かって投げ、耳元を掠めたりしていた。

また、危険な刃物を振り回す者がいれば、小型の鉄球の付いたロープで、相手の凶器を奪い取る。
そしてその武器を投げ返すと、黒いローブの裾(すそ)を壁に釘付けにするなど、使えるものは何でも使った。

動ける状態の敵が減ってきたのを見て、彼は奥の部屋で首領と戦っているタフツァの加勢に飛び込んだ。

入ってみると、驚いたことに奇術師ヨンドは、床に大きな穴をあけ、タフツァとの距離を取っているではないか。

「同穴どもはみんな殺したのか?
おらあ、ここで死んだ方がマシだ。」
「いいや。
誰も死んでない。
どんな理由があっても、生命あるものを殺傷することは許されない。
お前たちにそのことが分かるまで、アミュ=ロヴァで労役に服してもらう。」
「へっ!
魔法を奪われ続けて苦しんだ者に対する報いが労役かよっ?
連れていかれたところで、おれは何もしないがな。」
「それでも構わない。
労働するもしないも自由だ。
“LIFE”に目覚めたアミュ=ロヴァ市民は鞭(むち)打ったりしないだろう。
だがな、限りある生を無為に過ごすのか、万人が自他に果たすべき労働によって価値を創造するのか、十分に考える時間が獄舎の中にはある。
その時間もまた、お前のものだ。」

悪態をつかれればいくらでも汚く罵り返せるヨンドである。
それが、大真面目にどう生きるかの選択肢を投げかけられるとは。

彼は生まれて初めて、動悸で全身がふらふらするのを覚えた。

後方から駆けてくるノッグルに、振り返って制止したタフツァは、ヨンドが追い詰められて危険行動をとらないよう、気を配っていた。

「お前は特別に捕縛しない。
丁重に護送する。
アミュ=ロヴァの仲間のもとへ行かないか・・・?」

こう言いながら、タフツァはヨンドが爆破した床に、ロニネで蓋(ふた)をしてしまう。
逃げられるのも、自害されるのも困るからだ。

「僕は法皇に憎まれて獄舎へ捕らわれていた。
今も、これからも、絶対に粗末な扱いはしない。
もしアミュ=ロヴァ側で横暴なやり方をする人間が出て、お前たちを不当に扱ったならば、僕がその者と対決しよう。」

しばらく沈黙した後、ヨンドは言った。

「わかった、わかった、かなわねえ。
ひとまず捕まってやらあ。
後でどうなってもしらねえぞ。」

タフツァは微笑んで手を差し伸べ、ウィロを先に行かせて、この危険人物にあえて背中を見せた。

集まってきた巡査隊の4人は警戒していたが、ヨンドは仮に何人か殺せたとしても、自分が捕まるという結果は同じであると開き直っており、抵抗せず車に乗り込んだ。

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