第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
2体の悪魔は、出現と同時に荒々しい力で空間を揺るがしたらしかったが、ヱイユがそれを凌ぐ大魔力で押し潰してしまった。
怒りに任せてぶちまけられる様々な異常現象は掻き消され、ただ憐れなほどに不恰好な、動作の鈍い、何をするにも苦しそうな馬と山羊がそこにいるだけだった。
2体の悪魔の足元に、今度は赤い魔法陣と黄金色の魔法陣が浮かび上がる。
赤い魔法陣に足元を脅かされた山羊の怪物エンリツァーカ=ギールは、一歩を踏み出す間に、大地から現れた竜王ゲルエンジ=ニルの顎(あご)に捕らわれ、噛み合わされて、外へ何本かの腕や触手をはみ出させたまま、雲を貫いて、そのまますっかり見えなくなってしまった。
「俺は別にああしろとは言わなかったんだがな。
大自然を司る竜神の怒りだ、受けてもらうさ。
・・・俺がせっかく懲らしめて改心させてやろうと思っていた法皇を、いとも簡単に殺してしまったのは、きっとあいつだろう。」
金色の魔法陣からは巨大な鳥の羽が広げられて、その背に馬の怪物モルパイェ=フューズを乗せたまま、高く高く舞い上がっていった。
ガルーダと呼ばれるこの鳥は、竜族よりも大きく、竜を捕食する。
「迦楼羅(かるら)」または「金翅鳥(こんじちょう)」ともいう。
今までの召喚では翼の色は漆黒だったが、真に“LIFE”の使命に目覚めたヱイユが呼び出したことで、本領である金色に変わったのである。
巨鳥はその絶大な魔力を以って馬頭神を上空でロック・オンしてしまい、悪しき人間たちによって注ぎ込まれた悪魔の力を浄化しながら大気の中へ帰していった。
ガルーダから見れば小さいこの怪物も、人間や普通の馬と比べたら遥かに大きい。
生成に使われた馬の数は3頭、失敗作を合わせればその数は知れない。
6本の人食い植物の触手、ドラゴンの翼、爬虫類の骨格尾を持つ。
大きな体躯に蓄え込んだエネルギーが星に帰されたために、モルパイェ=フューズはみるみる小さくなった。
そのまま、ガルーダの口に入るほどの大きなになった時、馬頭神は一匹の蛇のような竜の姿に変えられてしまった。
そして簡単に飲み込まれ、怪鳥の腹の中へと消え去った。
ゲルエンジ=ニルの姿は疾(と)うに見えなかったが、ガルーダもまた光り輝く魔法陣に戻っていく。