第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
小さな白イタチが弧を描いて宙に飛び上がったかと思うと、ヱイユの前に着地した時には、恐ろしい悪魔カコラシューユ=ニサーヤの姿になっていた。
ニサーヤは皮の鎧のようなものを身につけており、背中には透き通った光る翼が6枚生えている。
人の言葉を話すのも特徴であるが、この時は怒りに震えており、動物の本能のまま、目の前の敵に向かっていた。
ヱイユはまずゾーを発動させた。
ニサーヤの体が50センチほど地面に沈み込む。
すると6枚の翼を放射状に広げて、赤い目を見開いたニサーヤは、ヱイユに眼光からの衝撃をぶつけた。
方陣の外で戦えば不利になる。
ヱイユは自身も重力で地面に踏み止まった。
これを他所に、ニサーヤは上体を起こして飛び上がろうとしていた。
「お前はもう飛べないぜ。」
ヱイユは雷電を呼ぶ時のように天を指差し、標的に向けて振り下ろした。
発動されたのは、上空から旋回しながら吹き降ろす気流だった。
強風で翼は乱され、動きも取れなくなったが、ニサーヤはじっとこらえ、ヱイユに報復する機を待っている。
「俺はお前と戦うつもりはない。
お前を倒せればいいんだ。」
頑丈なロニネで身を守りながら、ヱイユは強い言葉とは裏腹に、額の汗を拭っていた。
大地に縛り付ける重力も、空気の圧力も弱まることはなかった。
しかしニサーヤは、それらを跳ね除ける力を奮い起こしていた。
今度は電気の暴発に似た衝撃が、何重にも周囲へ迸っていく。
「「小僧め・・・!!
我が下僕の餌食となるがいい・・・!!」」
この魔獣の最も恐るべき特徴は、他の2体の悪魔を召喚することだ。
それまでかけられていた足止めの魔法に倍する力を一気に解き放ったニサーヤは、右手に紫色の魔法陣を、左手にダークグリーンの魔法陣を立ち上げ、馬頭神モルパイェ=フューズと羊頭神エンリツァーカ=ギールを呼び出した。