第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
夜が訪れた。
各地で野営をしているLIFE騎士たちは、交代で見張りながら馬車の荷台で休む。
山のないレボーヌ=ソォラは、ヱイユが休むにも地べたで寝るか木の上で夜を明かすかしなければならない。
追っ手のある今、そうするわけにはいかなかった。
灰竜の姿で飛び回っても、ニサーヤは見つからない。
もしアミュ=ロヴァへ行って、ニサーヤが襲ってきたら、街中を巻き込むことになる。
彼はカーサ=ゴ=スーダの東端にある森で、まだ明るい時間に寝ておくことにした。
誰かを追うのはよくあることだが、自分が追われるというのは初めてだ。
大型のゲルエンジ=ニルやガルーダを守護に呼んだなら、ここにいることが遠くからでも分かってしまう。
寝ている間、アーダに近くにいてもらった。
暗くなりかけた頃、慌てて起き上がったヱイユは、戦闘の準備をした。
ここなら村の者も来ない。
ニサーヤの標的が彼一人であることは都合がよかった。
さて、どうやって倒したものか。
あらかじめ、全16種類の魔法を、一つ一つ発動不可にする魔法陣は作ることができる。
その場合、禁術空間内では彼自身も一切の魔法が使えない。
つまり、完全な肉弾戦だ。
いつものように飛翔することもできない。
双方の魔法を封じたとして、剣の腕だけで荒々しい怪物を倒せるだろうか。
ヱイユは魔法力において、モルパイェ=フューズとエンリツァーカ=ギールを上回っている。
したがって、その2体が相手ならば、まとめてかかってきたとしても、どんな魔法も操(あやつ)り返して倒せるだろう。
だがニサーヤとは力がほとんど五分であり、勝機があるとすればそれは作戦によるしかない。
まずアンチ・グルガの魔法陣を、大きめに取った。
そして正の五芒星を二重に形成、「十角形」とした。
通常の火・水・風・土によるものと、電・磁・熱・冷によるものの、二通りである。
これで魔法は彼に有利な順方向を強化し、逆方向を弱体化できる。
方陣の中央にキャンプ・ファイアを焚いて、彼は心を落ち着け、じっと待った。
深夜も日付が変わる頃、西の方で光る二つの獣の目が見えた。
ついにカコラシューユ=ニサーヤがヱイユの居場所を嗅ぎつけてきたのである。