The story of "LIFE"

第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」

第 14 話
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カーサ=ゴ=スーダの村の奥、レボーヌ=ソォラから遠い方のはずれに、老婆の家はあった。
周囲に果樹が立ち並んでいて、今は枇杷(びわ)の実が見えている。

ヱイユは、ゆっくりと室内を行く老婆の後ろに従った。
その歩行を助けていた杖が振り上げられると、暖炉の焚き木に火が点(つ)いた。

背中に暖をとりながら肘掛け椅子に腰を下ろし、ヱイユにも、前のソファーに座るよう、指で示していた。

「あの娘を前から知っているようだったが。」
「はい。
思い過ごしかもしれませんが、幼少の頃に失った、ある先人の、後身なのではないかと・・・。」

老婆は背もたれに寄りかかっていたが、特に驚いた様子もなく、前へ屈んで杖に両手をかけた。

「その者の名は?」

大切な人の名前である。
ヱイユは多少、ためらいがちに、しかし、きっと分かってもらえると信じて、声に出してみた。

「うむ。
パ=ムヴィア=ナ。
確かにこの村で生まれ育った。」

彼女へ通じる人が、ここにもいたのだ。
懐かしさと、悲しさが込み上げてくる。

「カーサ=ゴ=スーダの血は女の血。
そして魔法の血。
レボーヌ=ソォラに限らず、ここの女を求める者は多い。」

老婆はヱイユに気を遣わない。
言葉を継ぐために考えながら話していた。

「しかし、ここの娘たちは、心から望んで子を設けるということがほとんどない。
血を守るためには仕方がないとも言えよう。
それで、慣れない外の世界と交わり、男に請われれば、そのまま戻ってこないことも多くあるのじゃ。」

ヱイユは沈痛な面持ちで聞いていたが、黙って頷いた。

「・・・あのムヴィアはそうではなかった。
騎士の男と出会い、自ら好んでリザブーグへ行った。
そこで“LIFE”を知った。」
「彼女には男児が一人います。
魔力はいずれ私を超えるでしょう。
おそらくは、母君をも・・・。」
「ムヴィアの没後、父に連れられて一度だけ訪ねてきたことがある。
カーサ=ゴ=スーダの、強き女の血を引いて、なお男児が生まれるとは。
父方の遺伝をよほど強く受けたとしか思えない。
その子には女児が生まれるかもしれぬがのう。」

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