第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
負傷したヱイユが手当てを受けたこの村こそ、少数民族が住む「カーサ=ゴ=スーダ」だった。
つまり少女リーシャも、魔法使いムヴィアと同じ、少数民族の娘なのである。
老婆はリーシャに、後で来るようにと言った。
素直な少女はヱイユを見送って家に入っていく。
男がいない村は女達の華やかさに欠け、質素さ・慎ましさは逆に殺風景で陰気な光景として映っていた。
出歩く者は少なかったが、稀に若い娘が出ていても着飾ってはおらず、ヱイユを見る目も、異性に対する関心や好感といった形ではなく、異質なものへの恐怖感が先に立つようだった。
アミュ=ロヴァの内衛士団が壊滅した日、フィフノスやカコラシューユ=ニサーヤと戦ったあの日から、もう10日近くが経っている。
天候も荒ぶるほどの、魔法の応戦による天変地異はすでに去っていたが、村の上空は白い雲に覆われて、春だというのに寒かった。
「なぜ、女ばかりか気になるか?
母親は、娘が生まれると、その子を村へ帰そうとする。
男児はまず生まれない。
中には男を捨てて帰ってくる者までいるのじゃ。
カーサ=ゴ=スーダの血は女の血。
そして魔法の血。
世界の危機に備えてこの血を守り続ける。
ここで育った者は、血の存続を願うのじゃ。」
ヱイユは黙って頷いた。
快活だったムヴィアは、ツィクターと結ばれるまで、この村の娘達のように陰気だったのだろうか、それは彼には考えられないことだ。
だが、少女リーシャはムヴィアと同じように快活である。
二人に共通する明るさ、そして強さは、世界の危機に生まれた者だけが自覚する民族の使命感によるものだろうか。
それとも、村のしきたりに縛られて願望も希望も押し殺してしまった者が暗く閉じこもっていくのだろうか。
目に映る村の景色は寂しいものであったが、ヱイユの脳裏には、美しい種々の花が咲き香る村で、元気に育つ幼いムヴィアの姿が思い浮かんでいた。
命の恩人である少女パナ=リーシャの姿とかさなって。