The story of "LIFE"

第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」

第 11 話
前へ 戻る 次へ

カコラシューユ=ニサーヤとの相(あい)打ちに倒れたヱイユは、ピンク色の魔力を全身に帯びて、バチバチと身を焦がされながら、東へ、東へ、風で流れていった。

灰竜アーダは彼の周囲で守護したが、攻撃魔法を帯びているヱイユの体に触れることはできなかった。

次第にニサーヤの魔法力が大気中へ放出されていくと、同時に込められていた滞空魔法も効果が薄れていくようだった。

やがてヱイユの体からピンク色の光が消え、落下を始めた時、アーダは彼を背で受け止めたのである。


それから一週間、ヱイユは目を覚まさなかった。

『私の“LIFE”を覚えていてくれたのね。
ありがとう・・・。
竜族のお友達に力を借りていたでしょう。
私は一人で発動させたから、なんとかできたけれど、大勢で複雑な魔法を起こすのは、とても難しいのよ。』

真っ暗な空間を今なお漂い続けているヱイユの潜在意識の中に、温かい、懐かしい声が聞こえてきた。

『“LIFE”とは、一人の人間の中で極限まで高められた、“存在”そのもの。
これをぶつけるから想像を絶する威力になるの。』

ヱイユの頬に、一筋の涙が伝った。

『あなたにはあなたの“LIFE”がある。
それは私の「封印」をあなたが使った場合と、到底、比べ物にならない。』

少年の頃から変わることのない、純粋にして無垢な心は、優しい声にこたえたかった。

『あなたにはまだ、やらなければならないことがある。
死に急いではいけないわ。
“LIFE”の発動を焦ることもない。
そして、“LIFE”の発動は必ずしも死を意味しない。
こわくないから、大丈夫よ。
今はゆっくり、休養することが何よりも大事・・・。』

ハッと、ヱイユは目をあけた。

天井との間に、明るい紫色の髪を持つ女性の、優しい表情が見えた。

「パナさんっ!
俺のせいで・・・!!」

ベッドには、少年のままのヱイユが横たわっていた。

「よかった・・・。
一週間も、うなされていたのよ。
もう大丈夫。」

視界がはっきりしてきて、目の前にいるのは、彼が思い描いていた女性ではなく、一人の少女であることが分かった。
それなのに、彼女の声が、言葉が、さっきの声と重なって聞こえていた。

「わたしはパナ=リーシャ。
おにいちゃん、どうしてわたしの名前を知っているの・・・?」

不思議に思う方が自然なことだ。
だが、語調とは裏腹に、少女は彼と知り合いであって当然といわないばかりに、微笑んでいるのだった。

前へ 戻る 次へ
(c)1999-2024 Katsumasa Kawada.
All Rights Reserved.