The story of "LIFE"

第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」

第 10 話
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「あの子ったら、自分の体を目立たなくするために降らした雨が、あたしの体を濡らしていることを、知っててやっているのね・・・。」

このヒユルという女は愛情と憎悪を都合よく使い分ける。
衣服を濡らされて憎らしいという感情は、その対象を自分のものにすることで、尽きせぬ愛情に変えようとしているのである。

「陰気なハイボン。
あたしのたのみを聞いてくれるわよね?
あの子を捕まえる罠(わな)を作ってちょうだい。
それから、・・・魔法を封じ込める檻(おり)もね。」

魔具職人ハイボンはテビマワにいる。
それなのにヒユルは、今すぐ叶えたい思いを一人で声に出して、聞き入れてくれないハイボンを憎んでいた。
ニサーヤに対しては愛情となるものが、他の者に対しては憎悪となって表れる。

「くそっ・・・!!
まぬけのハイボンめ、何をしているんだ!!
首を絞めて殺してやるからな・・・!!」

水溜りの地面を蹴ったせいで、泥水が飛び散った。
ヒユルは汚い水が顔に触れたので忌々しくなってきた。

「どうしてあたしだけ魔法が使えるようにならないんだよッ!?
ケプカスも、ヨンドも、ラモーも、ハイボンも、フラハだって、み~んな使えるようになったのに、なんであたしだけが使えないんだよッ・・・!!」

すっかり取り乱したヒユルは、誰に向けることもできない怒りを、地面や雨水交じりの空気や、ニサーヤが隠れていた岩などにぶちまけて暴れた。

加減ができればよかったのだが、感情に支配された彼女は抑制が利かなくなっていた。
悲鳴か罵声か、ヒステリックな叫びがしばらく響き渡った。

気を失いかけて地面に倒れそうになった彼女は、ようやく我に返った。
両手・両足が赤っぽくなっている。

「このやろう・・・!!
あたしが魔法を取り戻したら、覚えておけ、みんなぶっ壊してしてやるからな!!」

15時を過ぎ、雨雲は引いていた。
西へ傾いた陽光も微(かす)かに雲を割って差し込んだ。

魔天女ヒユルは、濡れた砂地に、白い貂(てん)の足跡が付いているのを見て口元を綻(ほころ)ばせ、黒いローブを脱ぎ捨てた。

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