第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
誰もが立ち去ったテビマワ~ザベラム間の荒地に、ピンク色の魔法陣がひとりでに浮かび上がり、1匹の白イタチ(貂=テン)を出現させた。
目立った外傷があるわけでもないのに、白イタチはひどく歩きにくそうで、前肢(まえあし)を引き摺(ず)るようにしていた。
時々蹲(うずくま)って全身をぶるぶるっと震わせ、天敵に遭った動物が発する、恐怖の交じった威嚇の声を出していた。
辺りは曇天と濡れた砂地だったので、白い色が遠くからでもよく見えてしまう。
イタチは天を憎憎しげに睨(にら)んでいたが、やがて雨が降ってきたので、岩陰へ急いだ。
ザーッと、強い雨が降り注いでいる。
泥を跳ね飛ばしながら、ずぶ濡れになって走り続けているうちに、白い毛が汚れて、だんだん黒っぽくなってきた。
ある時、ふと、雨でも風でもない物の音を聞き取ったニサーヤは、近くの岩陰に隠れた。
100メートルほどの距離をおいて、黒いローブのフードまで被(かぶ)った一人の女が、こちらをじーっと見ているらしかった。
言うまでもなく白イタチは悪魔カコラシューユ=ニサーヤの化身である。
女がこちらに歩み寄ってくる様子だったので、ニサーヤは、岩で女の視界を遮るように、大慌てで逃げ出した。
「うふふっ、見つけたわ、あたしのかわいい雌鼬(めいたち)ちゃん・・・。
きっと捕まえてやるから。」
彼女にはニサーヤが走っていく方向が分かった。
だが、急いだりはしない。
「あんなに痛めつけられて、一体誰が・・・。
ニサーヤを粗末にするなんて、フィフノスの奴、殺してやろうかしら・・・!!」
普段、脚にも膝下にも様々な飾り物を身につけている彼女だが、今は全て外していて、着衣もまくり上げているため、黒いローブの下からは透けるような白い素肌が露出していた。
ハイヒールが濡れるのは仕方ないが、泥で汚したくないと見え、裸足で歩いて、靴は手に持っていた。