第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
テビマワ周辺は、普段は埃っぽい砂地であるが、今は降り続いた雨で湿っていて、歩く者は靴底が沈み込むようだった。
バサバサの砂がすぐに抉(えぐ)れてしまい、そこに水が溜まる。
極めて足元の悪い状態だ。
LIFE騎士団・第三部隊と第十部隊は、東の方から、泥砂(でいさ)を跳ね上げ、こちらへ走ってくる衛士たちを見つけた。
後方には巨大なモンスターであろうか、追っ手がいるようだ。
第十部隊が突進、怪物を牽制しながら、逃げるアミュ=ロヴァ兵たちを保護した。
ひとまず道の両側へ分かれて怪物から離れるよう、誘導したのである。
真ん中に道ができた。
ウタック率いる第三部隊は、獲物を見た狼の群れの如く、次々と怪物に襲い掛かっていった。
この巨体は怪人ラモーである。
ウタックが叫んだ。
「こんな生き物がいるはずはねえ。
化けの皮、剥いでやれ!」
それはさながら、墓場から出てきた巨人の戦士とでもいえようか、皮膚は破れていないが汚れており、身につけた衣服はボロボロだ。
石でできた棍を振り回している。
LIFE騎士といえど、戦闘ともなれば形振り構わない。
スマートに事を遂げられればいいが、少々の怪我など日常のことだ。
誰が一番最初に敵の棍棒を破壊するかということになった。
もちろん、立って話し合っているわけではない。
有無を言わさず襲い掛かるのである。
普通のサーベルと比べて、刃がない分、刀身が太く強化されている。
ガツン、ガツンと棍棒は狙われ、削(そ)がれた破片が飛んでいった。
一気に決しようとする猛獣の如き勢いに押されて、ラモーはなかなか攻撃に転じられなかった。
むしろ身を守ることで精一杯だ。
しかし彼は病的にプライドが高い。
膝を屈伸させて飛び跳ね、暴れながら、怒りに任せて何かを詠唱していた。