第 07 章「展転(てんでん)」
第 02 節「魔天女ヒユル」
暗雲が立ち込める空の下、城塞テビマワと古都アミュ=ロヴァの中間地点に布陣していた、LIFE騎士団・第三部隊と第十部隊は、到着後すぐに送った斥候の一人から、内衛士団の中に対立があって、帰還する士卒がいるので保護してほしいと連絡を受けていた。
法皇に信義を踏み躙(にじ)られた彼ら30数名は、互いに守り合いながらアミュ=ロヴァを目指してきた。
あまりの悔しさに、時々立ち止まって、声を上げて泣く者もいたのである。
LIFE騎士団は朝の会議で、緑色を基調とした「旗」を制定したが、出発を急いだため、各部隊が1本だけ持っていた。
軍旗を守るのは「親衛隊」の役目で、少数のLIFE騎士団員は交代に掲げて持っていた。
忌わしき殺戮と決別して本国へ帰ってくる衛士らを迎えるのだ。
恐怖を与えたり道を塞いではいけないし、警戒させるのもよくない。
LIFEの2つの部隊は、アミュ=ロヴァへ通じる方角を大きく開け、その両側に広がって「旗」を右に左に回しながら、声援を送り、手を振った。
それを見たアミュ=ロヴァ兵たちは、一目で、敵でないこと、自分たちの深い悲しみを分かって、しかもその勇敢を讃えてくれている同胞であると気付いた。
悔しくて流した涙は、帰る所を見つけた感涙に変わったのである。
勇猛で名を馳せたウタックもハッボスも、部下にサーベルや大刀を置くよう命じ、駆けて行って、抱きかかえながら生還を喜んだのち、戦役での出来事を聞いて共に涙を流した。
このまま心付けながら一緒に引き返そうにも、テビマワへ攻め入った同僚が気掛かりだという。
法皇に付く付かないで別れはしたが、皆、古くからの仲間であって、同じ過ちを犯してきたのである。
ウタックは頷き、きっと仲間を助け出すと約束した。
ここから国へは安全で、同じ緑の「旗」を掲げた仲間もいる、安心して家族の元へ戻っていてくれと励ました。
元・衛士たちが出発した後、ウタックは目を怒らせ、つーっと一筋の涙を伝わせて部下たちを振り返り、無刃サーベルの柄を握りしめながら言った。
「同じ武に生きる者が、付く人間を間違っただけで、あんなに誇りを傷つけられて帰って行くなんてよう!
お前たち、一人も死ぬんじゃねえぞ。
戦場に立っても生き抜いて、この“LIFE”っていう道を、地の果てまで広げていってやらなければ済むめえ。」