第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
城塞テビマワは手薄だった。
悪魔結社マーラの術士たちが、皆ここを捨てて逃げてしまったからだ。
砦内深くまで攻め入った十数名の最後の法皇軍には、血の気の多い者ばかりだった。
しかし敵の姿は見当たらず、地下も、地上も、蛻(もぬけ)の殻である。
「一人でも構わない、逃げ遅れた術士がいるはずだ!
見つけ出せ、見せしめにするのだ!!」
内部には誰も見当たらないので、周辺を探そうと、外へ出て彼らはようやく事態に気が付いた。
砦壁は密閉されており、容易に逃げ出すことはできず、そこには術士ケプカスが立っているではないか。
総勢で目を血走らせて襲い掛かる兵士らに、ケプカスはニヤけた表情を浮かべながら、たじろぎもせずに魔法陣を立ち上げた。
そして山羊の頭を持つ悪魔「エンリツァーカ=ギール」が、爆風に似た衝撃を起こしながら現れた。
悪魔は地響きを立てながら歩いた。
「こいつは・・・!
闘神ヱイユが言っていた化け物じゃないか!?」
「死にたくなければ戦わずに逃げろと?」
「おわああああ、オレはこんなところで死にたくないっ・・・!!」
2~3人が逃げ出すと、全員が逃げ腰になった。
法皇は激昂した。
「なぜ逃げる!?
貴様らなど、安い生命ではないか!!」
振り返って法皇を睨みつける者がいた。
衛士たちは砦壁を魔法で爆破して道を作った。
我先に逃げる彼らを、恐ろしく巨大な姿に変化した怪人ラモーが追撃した。
一人取り残された法皇ハフヌ6世は、憐れにも全ての衛士から見捨てられ、逃亡を試みたが、悪魔エンリツァーカ=ギールの触手を避(よ)けることはできなかった。
どれほどの高位魔法を詠唱していたのだろう。
あっさりと絡め取られた法皇は、地面に叩きつけられ、他の5本の触手で散々に刺され、腹部を噛み砕かれて、瀕死の苦しみのまま、更に弄ばれ苦しんだ。
「うぬう、マーラめ、腰抜け共め!
覚えておれ、恨みは必ずはらしてくれよう。
アミュ=ロヴァめ、レボーヌ=ソォラめ、世界を焼き払うならば、この世は死肉の焦げる臭いで充満するだろう・・・!」
ハフヌ6世の最後の叫びは、彼の生命が、グルガという「排他的殺戮性」に、完全に敗北し、制圧され、暗黒一色に染まってしまったことを物語っていた。
頭部を失って悪魔の口からぶら下がるそれは、内面を見れば、人工的に作られた3体の悪魔たちよりも、一層、悪魔としての本性をよく表していたにちがいない。