第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
吹き飛ばされながら、全身に電気を帯びて苦しめられたヱイユは、焦げ付く痛みを大気中の水で冷やしつつ、戦場に戻ってきた。
見ると、フィフノスが呼んだ小隕石の数は、優(ゆう)に10を越え、まだ降るのかと、立ち竦(すく)むようだ。
雲間から、目にも止まらぬ速度で落下する隕石は空気との摩擦で赤熱しており、アーダはロニネを張っていたが、バリアへの直撃を受けて、地上へ撃ち落されてしまった。
助けに降りたヱイユの近くへ、怒りに逆上したフィフノスが、ゆっくりと下降してきた。
遠くまで不気味に響き渡る声は、明らかにおぞましい何かの詠唱であり、もはやどのような手を尽くしても、止めることはできないと思われた。
フィフノスが見下ろす空間、ヱイユたちの頭上に、巨大な魔法陣が浮かび上がると、一帯は、地面が揺れているのか、空気が揺れているのか、ガクガクと震え始めた。
そして、円周を伝うように紫色の魔法エネルギーが、電気のようにバチバチと迸(ほとばし)り、空間の異常現象を、外へ、外へ、押し広げていった。
すると、バチンと、光ったのか、爆発したのか分からぬうちに、魔法陣は消え、そこには薄いピンクがかった、恐ろしくも美しい霊獣、すなわち悪魔「カコラシューユ=ニサーヤ」が姿を現した。
女性のような声が聞こえてくる。
「「人間よ、現象に触れることなかれ・・・。」」
術士のフィフノスでさえ、まともな言葉は喋らないのに、呼び出された魔物が、人の言葉を話すとは。
生まれて初めて恐怖に怯えるアーダの姿を見て、素早く魔法陣に帰したヱイユは、ひとまず自分が受けて立とうと決心した。
「言葉が分かるのか。
お前は何を目的とする?」
目の中がピンク一色に染まるほどの、悪魔の力の発現が起きた。
「「我は神、汝は人。
人間が、神の領域を侵すことは許されぬ・・・。」」
電撃のようなエネルギーの暴発が、バチッ、バチッ、バチッ、と続けて起こり、ヱイユはかわすこともできずに、後方へ退(すさ)った。
馬頭神「モルパイェ=フューズ」や、羊頭神「エンリツァーカ=ギール」には対抗し得たが、この第三の復活悪魔には、為す術(すべ)もないのか。