第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
死滅を司る魔法「グルガ」は危険極まりない。
殺傷のための手段は選ばないのが悪魔結社マーラである。
まずは、魔法を詠唱する隙を与えぬほどに、ヱイユが剣で攻め、アーダが援護する形をとった。
尽きせぬ魔力を使いきらせようとするよりも、先に限りある体力を消耗させておく方が、遥かに安全だ。
敵がヘトヘトになるまで剣撃を繰り出した後、空中戦に慣れている二人は、フィフノスの体を宙に浮かべようとした。
最終的にこの術士を捕らえるとしたら、魔力を消耗させなければならないだろう。
通常、浮遊には重力の魔法「ゾー」を用いる。
だがフィフノスもまた熟練の魔法使いだ。
身を軽くされれば、大地にしがみつくように、逆向きの「ゾー」を唱える。
これを見たアーダは、二人の周りを旋回するように飛翔し、渦巻く風を竜巻と成して、ついには相手を吹き上げることに成功した。
上空にあって、ヱイユもアーダも、フィフノスには「ゾー」をかけなかった。
落下したくなければ、嫌でも自分で「ゾー」を使うしかない。
ヱイユは空中でも容赦なく剣による打撃を繰り返した。
慣れない空中で、「ゾー」を使い続け、更にヱイユの剣撃を防がなければならない。
フィフノスは、おそらく本人にしか分からぬ奇怪な声を発し、怒りを露わにした。
突然、絶大な魔力を放ってヱイユを剣ごと弾き飛ばすと、今度はアーダが標的になる。
危険な詠唱を止(と)めにアーダが接近するも、気が付くとフィフノスの周囲の空間には、数限りない小型の球状グルガがふわふわと浮かんでいた。
触れるだけで皮膚やドラゴンの外皮など消し飛んでしまうだろう。
そこへ、母なる「アズ=ライマ」の周囲を漂う小隕石が、フィフノスの尋常でない魔法力に引き寄せられて、空気の層を抉(こ)じ開け、灰竜アーダの体を目掛けて、3つ、4つ、と急落下してきた。