第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
悪魔使いの両腕が、蛇の首のように伸びて、ヱイユの背後へと回り込む。
それは曲線軌道をとったグルガの発動であり、フィフノスの意のままに動いた。
スッと飛び上がって50メートルほど浮上したが、下から2本の暗黒触手が追ってきた。
さすがに、フィフノスが操る現象を、より以上の魔力で操り返すということはできなかった。
妖刀ヤマラージで受け止め、堪(こら)えようとすると、フィフノスは被(かぶ)った頭蓋骨の間から歯を剥(む)き出しにして、何やら通じない言葉を口走った。
感情的には笑っているらしいのだ。
これまでに倍する勢いと力が加えられた。
ヱイユは刀で防ぎきれなくなって、いったん、エネルギーを上空へ飛ばした。
着地して、フィフノスの詠唱を止(や)めさせようと詰め寄ったが、最初2本だった暗黒の魔法エネルギーは、雲の辺りで無数の帯状に分散、ヱイユ目掛けて、これでもかというほどに降り注いだ。
ロニネを張って身を守るヱイユに対し、フィフノスは正面からトゥウィフを撃った。
バリアが消し飛んで、空(そら)からの強襲は、一撃、二撃、三撃、・・・と、爆音を立て、炸裂する。
硝煙に似た煙に、暗黒色のエネルギーの発散も交じって、辺りは胸を悪くするような臭いに包まれ、呼吸ができぬほど空気は濁りきってしまった。
ところが、ゲラゲラと声を出して笑い転げるフィフノスの目に、ヱイユの立ち姿が飛び込んできた。
その両肩には灰色の翼が大きく広げられていた。
若いドラゴンの威勢のいい鳴き声が響き渡る。
近頃、シェブロンのいる孤島ルング=ダ=エフサとの連絡役として飛び回っている灰竜アーダが、この無二の親友の危機を察知して、助けに来たのである。
ヱイユとアーダは頷き合い、反撃に出た。
と言っても、目的は飽くまで、生物兵器である3体の悪魔の発現を押し止(とど)め、術者も抵抗できぬほどに消耗させて、捕縛するところにある。