第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
闇の都市ザベラム方面へ向かう姿を確認した後、しばらく見失っていた悪魔使いフィフノスだが、ヱイユは上空からの眺めで、ついに彼を探し当てた。
マーラの術士は皆、黒いローブを身に纏(まと)っていて、見分けがつきにくい。
そうした中、フィフノスは角のある獣の頭蓋骨だろうか、頭部を覆っているため、顔は見えなくても、よく目立った。
また、彼はあまり集団で行動しない。
最強の悪魔「カコラシューユ=ニサーヤ」の化身とされる「白いイタチ」を連れて歩くのも、現状、彼だけだった。
小さいイタチは、チョロチョロと忙しそうに付き従っていた。
人間の姿に戻っていたヱイユが、フィフノスの背後へ降り立とうとしたその時、イタチが振り向き、ヱイユと目が合った。
ピカリと電光が走り、轟く雷鳴は暗い真昼の空を震わした。
ニサーヤに睨まれたヱイユは、まだ一歩を踏み出せずにいる。
百戦錬磨の彼が、小動物の威嚇を恐れるというのか。
ゆっくりと振り向くフィフノスは、頭に被(かぶ)った頭蓋骨の隙間から、笑っているように見えた。
ふいにニサーヤが宙へ飛び上がり、狐火のような青白い曲線を描く。
いよいよ本性を現すかと、さすがのヱイユも冷や汗が出るのを感じた。
しかし、ニサーヤはフィフノスの手の中へと消えてしまい、かわりに、ごつごつとした太い杖が飛んできた。
ぶん、ぶんと、フィフノスは杖を振り回す。
ヱイユは、身でかわす以外のすべを知らない者のように、ひたすら攻撃をよけた。
ようやく彼の手に、変幻自在の妖刀「ヤマラージ」の弧が浮かび、バサッ、バサッと、素振りをすると、攻勢に転じていった。
当然、動きはヱイユの方が素早い。
フィフノスの杖は、弾かれ、弾かれ、後退するばかりで、二人は次第にザベラムの方へと流れていった。
『くそっ、何が狙いだ?
この先にはLIFEの野営があるはず・・・。』
悪魔結社マーラの中で、最も危険な術士であるフィフノスを、LIFE騎士団やアミュ=ロヴァの同志たちに近付けない目的で動いてきたのだ。
一対一ならば、勝たないまでも、負けることはないだろう。
ヱイユは、フィフノスとの戦闘に、他者を巻き込むことだけを恐れているのだ。