第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
この世に地獄というものがあるならば、法皇とその周囲にはまさに地獄の深淵が口を開いているとしか思えない。
正気を保っている内衛士団の士卒たちは、もはや従軍できないと、声を掛け合って、その場から走り去っていった。
仲間が、法皇の手で無残に殺されるのを見て、心に深い傷を負っていた。
信義も誠意も裏切られた悔しさ、悲しさに、涙を流しながら去る者もいた。
やがて、その場には法皇を合わせて10名少々の人数だけになった。
「六芒星を描け!
逆方向でな。
しばし休んで、テビマワに侵攻する!!」
不吉な方陣は、反“LIFE”の魔法エネルギーを集め、法皇の体に注がれていった。
ザンダが全回まで数日を要した逆方向魔法陣の害毒も、今、ここに居残る殺害者たちにとっては心地よいらしい。
ドス黒い魔力を吸い上げての休息が終わると、最後の悪魔の行進となった。
赤黒い雨が降り、電光は雷雲を切り裂いて、16年前に世界を覆った闇が、再び法皇軍の頭上に立ち込めたかのようだ。
豪雨が豪雨を呼ぶ。
衛士たちの全身は赤っぽい泥水に汚れて、目だけがギラギラと不気味に輝いていた。
そして、テビマワの砦壁(さいへき)に至った。
「分かっておるな?
中にいる者を皆殺しにすることだけが我らの目的だ。
死を恐れるな、行け!
衛士どもよ!!」
殺戮を生業(なりわい)とする羅刹(らせつ)そのものに転落した内衛士団の残党は、ずぶ濡れの成りも振りも構わず、城塞テビマワへ突入していった。
その頃、先までテビマワ上空にいたヱイユは、白いイタチを連れてザベラム方面へ落ちて行こうとする悪魔使いフィフノスの姿を確認し、追跡していた。
空に浮かべられていた黒ローブの術士たちは、地面に足が着くや否や、二度とあのような目に遭いたくないと、テビマワを捨て、すでにザベラムやモアブルグへ向かい、疾走していた。
ヱイユは顔を手の平で覆って後悔したが、よく考えてみれば、マーラの術士たちが再び篭城してテビマワを守るという行動は考えにくい。
LIFE騎士団がすでに配備されている。
マーラとLIFEの対決が、周辺の各地域で起こることは避けられない。