第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
軍師スヰフォスの作戦としても、テビマワに篭城している悪魔結社マーラの術士たちは、いずれ外へ引っ張り出さなければならない。
どんな罠が仕掛けられているか分からない城塞へ攻め入るより、テビマワから術士たちを締め出してしまった方が安全だからだ。
剣と剣、魔法と魔法がぶつかり合う会戦は避けて通れないだろう。
それならば、彼らが一箇所に潜伏している今こそ、決着への筋道を作る上で重要な局面と言えまいか。
法皇軍と悪魔結社マーラ。
悪しき一念は両陣営に。
双方が憎しみ合い、殺し合うつもりで相(あい)対していた。
ヱイユは、自身が標的とされることを覚悟の上で、マーラの敵、法皇軍の敵、という立場を取ろうと考えた。
いわば、2つの反“LIFE”思想の間に立つ、「LIFE軍」の先鋒を、自ら買って出ようというのだ。
怪鳥ガルーダや、竜王ゲルエンジ=ニルとの対戦時は、相手が1体だったからこそ、アーダの力を借りて倒すことができた。
ある意味、胸を借りるつもりで、全力で戦えたと言える。
しかし今度の相手は、殺意を持つ魔法使い集団に、同じく殺意を持つアミュ=ロヴァの精兵である。
誰一人として犠牲にはできないし、力を加減しなければならない。
相互にやり合うことも食い止めておきたい。
東から吹く強い風は、法皇軍にとって、向かい風になった。
ただでさえ前方や周囲からの攻撃に警戒しながらの行軍であり、慎重な足取りだ。
着衣が乱れ飛ぶほどの風は一層、歩行を困難にしていた。
軍を上空から追い抜いてテビマワに至ったヱイユは、今度は召喚ではなく、自ら変化して赤竜ゲルエンジ=ニルとなった。
「大蛇」の形態ではなく、機敏に動ける「翼竜」の姿である。
砦壁を越えて地上3階建ての本棟に接近し、石造の外壁に一撃入れてみた。
すると、見張りに立っていたマーラの一員は、大慌てで中に入り、外側には見えないが、階から階へ、走り回っているらしい。
各所に設置された小さな監視窓が開いたり、閉じたりしている。
そして遠隔攻撃用の窓が順々に開いたかと思うと、そこから魔法弾が飛び出し、撃っては閉じ、別のところから飛び出し、と赤竜ヱイユは標的にされてしまった。
バリアを張って防いだが、魔法による集中砲火はいつ終わるとも知れず、翼をはためかせたまま、じっとこらえているしかなかった。