第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
法皇に率いられて内衛士団がオフサーヤ宮殿を発つ時、ヱイユは強攻策の非を説いた。
兵士といえども、一人の人間として、軍のやり方が間違っていると認識したならば、勇敢に行動を起こさなければならない。
それが社会の構成員として、個人の責任であるからだ。
職を失えば家族を養えなくなる。
だからといって、不正に加担し続ければ、養われる妻子にとっても不名誉なことではないか。
傷ついた仲間たちが打ち捨てられた時、彼らを助けて帰還を決意した者は勇敢だった。
アミュ=ロヴァに戻れば、“LIFE”による国家再建を誓った市民たちが迎えてくれるだろう。
家族も皆、兵士である父や夫や兄が、“LIFE”を志してくれることを願っている。
昨夜に続き、第二戦を断行しようとする衛士たちはテビマワへ向かっていた。
ヱイユは、時間の許される限り、一人でも多くの生命を救って、アミュ=ロヴァへ帰してやりたいと思った。
頭では軍の愚行を分かっている者もいる。
権威に支配されて逃げ出せない者が、あの中に多くいるのだ。
法皇と対決して士卒を解放してやればいいのだろうか。
ただし、法皇側に立つ人間が要所要所に配備されている。
魔性に動かされているのはハフヌ6世だけではなかった。
人間の意志というものは堅く揺るがない場合がある。
そうした個々の人間の信条と言えるものは、力によって圧倒してはならない。
良いことであれ、悪いことであれ、本人が納得するまで、事の本質を突きつけてやる必要があるのだ。
時に自身の生命を失うまで分からない者もいる。
だが、誤った信条に殉じさせるのは、本気でそれを望んでいる者だけに止(とど)めよう。
誰一人、道連れにさせはしない。
明け方の空は雨雲に覆われて暗かった。
遠雷はやがて頭上の雷鳴となった。
雨が降り頻(しき)り、衛士たちの足元を悪くした。
歩速は緩まざるを得なくなった。
電光によって辺りがパッと光り渡った瞬間、軍の行進を遮るようにして、真っ赤な肌を持つ巨大な竜神が姿を現した。