第 07 章「展転(てんでん)」
第 01 節「業障(ごうしょう)の苦(く)」
朝、アミュ=ロヴァ軍の進撃を前に、闘神ヱイユがようやく戦線付近に到達した。
彼は並外れた魔法力を持ってはいるが人間であり、ゆうべソマに会ってLIFE騎士団との連絡を託した後、風雨を凌げる場所を選んで一晩ゆっくりと休んだ。
悪魔イル=デュゴスに一度も魔法を使わせなかったように、たとえばテビマワ上空へ行って、術士たちの魔法発動を禁じてしまえば、悪魔結社マーラの壊滅は容易であるに違いない。
しかし、今テビマワを攻めようとしているのは、反“LIFE”とも言うべき法皇の軍勢であり、もしもヱイユがマーラの魔法を禁じてしまえば、黒いローブの術士たちは一人残らず殺されるだろう。
過去、死滅の古代魔法グルガを封印することで、それを得意とする危険勢力は非魔法使いにされ、粛清された。
後の数百年間、グルガの発動は一度も行われなかった。
封印が効力を持っていた、長い中世暗黒の時代、生来のグルガの使い手が生まれてくると、彼らは魔法が使えないので、学者として復讐の方途を探り、世を呪い続けた。
そして物語の16年前、封印が解かれた時、魔力を取り戻した古代魔法学者たちは結束した。
人間社会への恨みを、「悪魔復活」という形で晴らそうとしたのだ。
法皇軍は、古(いにしえ)の「封印」と同じ過ちを繰り返そうとしている。
悪魔結社マーラの術士を根絶やしにすれば解決だと考えている。
グルガを封印して、世界は良くなったのか?
人々は幸福になったのか?
乗り越えられない問題を抱えた人間は、社会から抹殺してしまえばそれでいいというのか。
否、根本的な問題は何一つ解決されず残るのだ。
時を経て、死滅のグルガという、人間生命の深い闇は、悪魔という目に見える形となって暴走を始めた。
ここで再びマーラの術士たちを殲滅するならば、同じ歴史を繰り返すだろう。
尊極なる“生命”を、一瞬にして奪い去る古代魔法グルガと、アミュ=ロヴァ軍が持つ「排他的殺戮性」とは、現れ方が違うだけで、全く同一の、“人間生命の奥に潜む闇”以外の何物でもない。
人類史的に見れば、宿命の転換とは、“生命”が始まって以来、絶えることなく存在してきた“恐るべき闇”に、一人、また一人と、打ち勝っていくことを意味する。