第 06 章「使命」
第 03 節「総力戦」
一方、左側の塔の獄吏は、先の数時間に及ぶ異様な人だかりを見下ろして、青黒い瞋恚(しんに)の炎を燃え上がらせていた。
彼は名をジスコッツと言い、イル=デュゴスの姿も、美しい花が舞う様相も見えてはいなかった。
だが「“LIFE”を基調とした・・・」とか「自らの“生命”に巣くう魔性に打ち克つ」などという声がそこら中から起こったことで、タフツァの仲間がアミュ=ロヴァの人々を誑(たぶら)かしているに違いないと受け取ったのである。
もしタフツァが外の様子を目にしていたら、感激に咽(むせ)び泣いたことだろう。
パーティリーダーに指名されてからというもの、我が身を擦り減らして誰よりもLIFEを守り戦った上、獄にまでつながれた彼こそが今日の出来事を喜ぶべきだったのではないか?
それが皮肉にも、春の日差しに包まれた快晴の空の下ではなく、暗い塔内で、午前中は水汲みの肉体労働、昼は粗末な食事しか与えられず、午後は一日のエネルギー全てを魔力に変えて放出の役(えき)に服さなければならなかった。
彼にはまだ試練が残されていたのである。
暗くなった頃、あと少しで横になれると言い聞かせながら魔力を絞り出していると、獄吏ジスコッツが現れ、加減をしたなと怒鳴り散らしてタフツァの背中に、何度も何度も鞭を打った。
歯を食いしばって、倒れぬよう、懸命に耐え抜いていた彼は、一瞬、気を失いそうになった。
そこへ殴打が飛んできた。
ジスコッツは忌々しげに吐き捨てた。
「この国は全部、おかしくなってしまった。
事の始まりは、貴様らがおかしな話を吹聴して回ったことじゃないか。
法皇様が戻られたら、今度こそ、息の根を止めてやるからな!」
そう言って胸元を掴まれ、憎悪に血走った目で睨まれ、もう一度殴られた。
タフツァは横面を押えて立ち上がり、問いかけた。
「お前は何を信条とする?
何のために生きている?」
“LIFE”への冒涜(ぼうとく)の重罪を積んでいく獄吏に対し、彼の憐憫の気持ちが口を衝いて出たに過ぎないのだが、実際、目には見えない鋭い刃が、逆徒の眉間に残像を描いたまま、ズサリと床の上まで振り下ろされていた。
急に、著しい目眩(めまい)と呼吸困難の苦しみに陥ったジスコッツは、壁にもたれかかって大きく目を見開き、苦しそうに喘いで、助けようとしたタフツァを振り払いつつ、よたよたと覚束(おぼつか)ない足取りのまま暗い階下へ、転落するように消え入(い)ってしまった。