第 06 章「使命」
第 03 節「総力戦」
魔法都市国家レボーヌ=ソォラは、「古都アミュ=ロヴァ」の発展に起源を持ち、続いて半島のルモア港(ミルゼオ国領)に近い「モアブルグ」の成立、貿易中継地点としての「駅町テビマワ」の発達、そして「ザベラム」周辺における反国家・反世界思想の人々の集合地帯が形成されたことにより、ほぼ現在の勢力図となった。
その後、テビマワは衰退して寒村となるが、近年、悪魔結社マーラに占拠されて城塞が築かれている。
「都市国家」という、独立の行政を持つ都市の集まりに見せてはいるが、実質的に各集落は古都アミュ=ロヴァの配下に置かれており、国内で紛争が起きると内衛士団が遣わされ、武力での制圧が為(な)されてきたのである。
アミュ=ロヴァは軍隊の力と権威の力で大国レボーヌ=ソォラを治めようとした。
しかしザベラムには権力の及ばない村ができ、やがて闇の都市となった。
ザベラムが危険視され始めた当初や、独立を宣言した頃には、何度も軍が差し向けられた。
こうして、「国家建設」や「治安の維持」という名の下に国を挙げた殺戮が行われ、敵対勢力はいつの時代にも闇へ葬り去られてきたのである。
粛清のあった後には、右の塔にも左の塔にも囚人が満ち溢れていた。
広場では公開処刑も執り行われた。
このレボーヌ=ソォラの「排他的政治」の中心地として聳(そび)える「オフサーヤ宮殿」は、まさに国家権力の魔性が無限に涌き出づる「源泉」ともいうべき伽藍(がらん)だ。
人間にしても、社会や国家などの集合体にしても、その性質を見れば、善悪・吉凶・明暗・強弱、様々である。
1000年近い歴史を持つこの都市も、愚行と悪逆を重ね抜いた人間たちの心を集めた、恐るべき怪物を有していた。
すなわち、現・法皇ハフヌ6世の姿で永く棲み憑いていた古都アミュ=ロヴァの魔性は、先のヱイユの一喝で人間の体を離れ、巨大な怪物の本体となって暴れ始めたのである。
悪魔結社マーラが魔法を応用して生体実験を繰り返し、伝説上の怪物を再現したのと異なり、今、オフサーヤ宮殿の地下に現れた魔物は、古来、何度かこの地を襲って文献にも描き残された「本物の悪魔」で、名前を「イル=デュゴス」といった。
ソマとヱイユが塔から宮殿に入ると、地下へ降りる階段の口から化け物の腕が出て、石の壁や柱を壊していた。
「まずいな・・・!!
ソマ、魔物は俺が引き受けておくから、建物の中にいる人を広場へ、そして街へ、避難させてくれないか。」
「うん、わかった!」
ヱイユはイル=デュゴスの動きを抑え込むように「ゾー(重力)」を発動させ、攻撃型「ロニネ」で階段口を塞いだ。
巨体で床を破って出てこられては危険である。
地下3階までの空間はすでに突き破られてしまったのか。
身動きが取れなくなった悪魔の絶叫が、内外に鳴り渡った。
宮殿全体が震撼して、石の柱や天井が砕け始めている。
衛士たちは総勢で出撃してしまったため、上に居るのは貴族や高位魔法使いとその家族ばかりだ。
1階へ降りるのを恐がる人々に、ソマは言った。
「宮殿は、もたないかもしれません。
私も一緒に降りますから、急いでください!」
それでも、高位魔法使いたちは飛び降りた方が安全だと言って、広場に面する2階の窓へ、押し合い、踏み合いながら殺到してしまった。