第 06 章「使命」
第 03 節「総力戦」
衛兵たちが出払ったオフサーヤ宮殿で、ヱイユはもうすぐソマに会えることを楽しみに思った。
彼女に対する感情だけは幼い頃のままである彼は、ソマを捕らわれの姫になぞらえて、助け出し連れ去ってしまおうかなどと考えては微笑した。
タフツァの場合はヱイユやソマの気持ちを考えることも多いが、ヱイユは自分の気持ちに正直なのだ。
罪が確定しないなどと言っても、所詮はありもしない罪であり、そんなものを待ってソマを危険に晒しておくなど、全くバカげている。
助け出したら、アミュ=ロヴァの「私設探偵組織サウォーヌ」にでも預けて、ヤエの近くに居させればいい。
通常、囚人との面会には獄吏の同行が必要である。
だがこの日は誰にも止められなかったので、女性の囚人が収監される右側の塔に入って2階まで上がってみた。
すると、そこにいるはずの、女の番兵もいないことが分かった。
今ここに入れられているのはソマだけであると知っていた彼は、格子を開けて、中へ立ち入ることにした。
外側からは何度か会いに来ている。
彼女は4階にいるのだ。
そしてタフツァとは異なり、罪が未確定であるから、労役に従事する必要がない。
コツコツと高い音を響かせて歩くのは女の番兵である。
独房でシェブロンの著書を読みながら考え事をしていたソマは、男の靴音に一瞬、胸騒ぎを覚えた。
足音が近づいてくるにつれ、これはシェブロン博士か、タフツァか、そうした親しい誰かの歩く音によく似ていると思った。
すると、鉄の扉の上にある、格子窓の布が開き、そこにヱイユのはにかんだ顔が見えた。
ヱイユはソマを抱きしめたい気持ちであったが、ソマは彼が扉を開けるなり言った。
「ちょっと!
ノックぐらいしなさいよね!!」
「お、おう。
悪いな。
誰もいなかったから、仕方なく来たんだ。
面会のまねごとでもしょう、2階へ降りてくれないか。」
ソマは少し沈んだ表情でうつむき、首を横に振った。
「ダメよ。
私は先生の教え子としてここに入れられているの。
勝手に出たりしたら、先生のお名前に傷がつくじゃない・・・。」
自由の身であるヱイユは、初めて、捕らわれている弟子の心境を知った。
「そ、そうだよな。
分かった、俺の考えが甘かったよ・・・。
お前をここから連れ出そうと思っていたんだ。」
ソマはヱイユの気持ちがうれしくて、無邪気に笑った。
「心配いらないわ。
別に危害を加えられたりはしていないから。」
「もしな、もし、どんな理由でも、お前に手を出す奴がいたら、・・・俺、すぐに来るけど、それまで頼むからさ、その時は・・・、魔法を使って、抵抗していてくれよ!」
二人とも胸が詰まってしまった。
ヱイユは、このままずっといられるなら、何時間でも、一晩中でも、ソマと話していたいと思った。
しかしその時、階下で甲高い番兵の悲鳴が響いた。