第 06 章「使命」
第 03 節「総力戦」
護衛の者たちを押し分けながら、法皇ハフヌ6世の眼前に立ちはだかったヱイユは、大きな声ではないが度肝を抜くような威勢で言い放った。
「言っておくが、お前の魔力は俺の100分の1にも満たないぞ。
そんな力量でテビマワへ行けば、いとも簡単にひねりつぶされるだろう!
高位魔法使いを自負しているようだが、恥を知れ!
死にたくなければ寝床へ引っ込んでいろ!!」
ハフヌ6世は震え上がった。
同じセリフを他の者に投げかけられたなら、当然、激昂するところだ。
彼はヱイユを知らなかったが、突如、神懸りにでも出くわしたように恐れ慄き、顔は青白くなり、白目を剥(む)いて、全身に力が入らなくなった。
しかし、その場に倒れてもおかしくない状態で、法皇は前方を指差し、衛士たちを伴って、よろよろと進んでいくのだった。
士卒はヱイユを咎(とが)められなかった。
彼らも到底敵(かな)わない相手だと知ったのだ。
宮殿を出ていこうとする一団に向かって、ヱイユは再度、稲妻のような声を響かせた。
「いいか、まだ正気な者たちよ。
忘れるな。
巨大な、馬や山羊の怪物を見たら、余計なことをしないで退却しろ!
死にたい奴は好きにすればいい。
特に前衛にいる者は総力でロニネを張って逃げろ。
分かったな!!」
振り返って会釈をする者がいた。
ヱイユはこれで被害を最小限に抑えられると思った。
自ら蓄えた悪徳によって、周囲の誰が助けてやろうと思っても、深淵への転落を止められない場合がある。
かわいそうなことだが、それだけの報いを受けることは、本人が一番よく分かっているのだ。
決定的な不正を積み重ねてきてしまった人間が、やはり自分のしてきたことは悪いことだったのだと知るためには、誰も邪魔立てなどできはしない。
タフツァはテビマワで、自ら転落していく者たちを助けようとして負傷した。
そこまでしてくれる人がいたのに、馬鹿にして嘲笑し、耳を傾けなかった報いが隊の全滅という結末だったと、彼らは厳然と知ったことだろう。
ヱイユはそこまでしない。
言うべきことは言ったのだ。
生きるも死ぬも、幸運に巡りあうも、一生不運に暮らすも、その責任は当の本人以外には有り得ない。
俺はこの人生に責任を持つ、お前たちも必ずそうしろよという、自他に平等な厳格さだけは崩さないつもりでいた。