第 06 章「使命」
第 03 節「総力戦」
悪魔使いフィフノスを追っているヱイユは、焦りを感じ始めていた。
テビマワ戦役の夜、忽然(こつぜん)と砦外(さいがい)に姿を現したフィフノス。
ヱイユが宣戦布告して、いったんモアブルグへ負傷したタフツァを送り届ける旨を述べると、律儀にもテビマワで待っていた。
硝煙が漂う中、死傷者に囲まれて何も思わないのか、性急に煙草をふかして瓦礫の上に座っている姿は、ヱイユから見ても、とても人間とは思えず、ゾッとした。
他のマーラの首領たちと少し異なり、黒いローブは着ているが、頭に山羊の頭蓋骨をかぶっていた。
ザベラムで、ザンダとドガァも目にした悪魔「モルパイェ=フューズ」は巨大な馬の化け物であり、更にヱイユは「エンリツァーカ=ギール」という山羊の姿をした悪魔とも対決した。
ケプカスが召喚した「モルパイェ=フューズ」の暴走でザベラムに大火が起きたように、悪魔はひとたび呼び出されると、その一帯は異常なまでの破壊現象に包まれる。
敵も味方も分からないのがモンスターたるゆえんである。
互いに殺し合わぬよう、2体同時に召喚されたことはない。
すでに超絶な力で君臨する、神話上の「邪神」のような存在だが、どちらも未完成であるらしい。
ヱイユはできることなら完成前にそれぞれを叩いておきたいと思っていた。
悪魔に挑む者は、よほどの魔力を持っていなければ、一撃をかわすことすらできない。
そんな危険な怪物を、もはや生かしておくわけにはいかないからだ。
人間の過ちによって生み出された生命ではある。
それを、同じ人間の都合で殺生してもよいものだろうか?
しかしヱイユは、2体の悪魔を絶命させることが、たとえ“LIFE”に背くことだとしても、何としてでも自分の手で決着しなければならないという使命感に立っていた。
さもなければ、彼が最も恐れている、「第三の悪魔」、すなわち、白いイタチの姿をした「カコラシューユ=ニサーヤ」が誕生してしまうからだ。
テビマワでフィフノスが連れていたイタチがそれであることは間違いない。
ただ、完成までにもう少しの時間を要するらしい。
2度の交戦では「ニサーヤ」が呼び出されることはなく、不気味なことには、初めて目にした後、フィフノスの近くからも姿を消してしまっていた。