第 06 章「使命」
第 02 節「春暁(しゅんぎょう)」
シェブロンの手紙は翌日ここを発った小竜リールによって、夕方にはソマへ、そしてヱイユへ届けられた。
二人とも、今置かれている境遇は決して楽ではない。
いかに闘神と言われるヱイユでも、悪魔使いフィフノスと使い魔を退治できるかどうかは分からないからだ。
自分たちよりも困難な状況にいる師が、思いがけず、すぐに手紙を届けてくれるとは。
ソマもヱイユも、人前では強がりな弟子だったが、孤独な戦いに立ち向かう中、師と心を通わせることができたために、苦境が続くとしても負けない、そして自分自身の宿命に絶対に勝つのだと腹が決まった。
そして博士とのやりとりは、ソマからヤエへ、タフツァへと伝えられた。
更に次の日になると、シェブロンの元へ小竜リールが再びやってきた。
ヱイユが付けたものだろうか、布の鞄を衣服のように着て提げていた。
中には、不便な孤島暮らしを助ける道具類が入っており、乾燥肉とパン、穀物や野菜の種子も届けられた。
「ノイ君、見てごらん。
これはありがたいじゃないか。
ヱイユ君らしくもないが、よく気を利かしてくれる。」
「LIFEを飛び出したのも、彼には放浪生活の方が合っていたのでしょう。
本当に心強い存在になりましたね。」
添えられた手紙にはこう書かれていた。
『お困りのことがありましたらすぐにリールをお送りください。
アーダは魔法で召喚しているために、島へ上陸はできませんが、往復の連絡に立たせております。
私の戦闘には、他にも魔獣がおりますので、ご安心ください。』
タフツァからの手紙もあった。
彼はシェブロンに入門後、初めて別行動になったのだが、師匠に心配をかけたくない気持ちと、作戦の成功だけを伝えたいという気持ちがあり、ずっと手紙を書けずにいた。
ところが、幼少時から博士に弟子入りしている、彼と同年代の二人が、何を気負うこともなく、素直に師に体当たりで薫陶してもらっている姿を見るにつけて、自分もそうあらねばならないように感じたらしい。
『先生、今までご連絡ができず申し訳ございません。
テビマワの戦役では、私が現地にいたにもかかわらず、アミュ=ロヴァ軍と悪魔結社マーラとの間で多くの死傷者を出してしまいました。
一時は、自分の力のなさに落胆し、戦いから退きそうになりました。
挫けかかった時、不思議といつもヱイユが現れて、先生との原点を思い出させてくれました。
その彼から、ファラ君がムヴィアさんのご子息であると聞きました。
ファラ君はすでにほとんどの魔法を覚え、剣の腕を磨いているそうですね。
私も、もう一度体を鍛え、魔法の修得に努めます。
一日も早くレボーヌ=ソォラを悪魔の恐怖から解放し、リザブーグへ参ります。
今すぐお助け申し上げられない自分が悔しい限りですが、どうかそれまでお体をお大事になさってください。』
シェブロンは早速、タフツァに手紙を認(したた)めた。
『私も若い頃から、思うようにいかないことばかりだった。
理想を捨てて、いっそ死のうかと思った時さえある。
しかしだ!
“LIFE”を人々に伝えようとする者が、苦難に遭わなかった事例は、過去に一度もないのだよ。
よくよく本質を見給え。
“LIFE”を志し、宣揚して、人を育てたがために、怨嫉(おんしつ)する者が現れて難を受けるのだ。
彼らに屈してはならない。
“LIFE”を継ぐ一人が、どれほど尊い存在であるか。
その一人を苦しめ、行動を妨害し、弟子を迫害する罪は、限りなく重い。
人類の歴史は、“LIFE”に背こうとする生命本然の暗さに、打ち勝つか負けるか、これによって左右されてきた。
そして我々の革命は、一人の人間に始まり、全人類にまで広がっていくのだ。
“LIFE”に背く立場の者が、世のあらゆる不幸を招いているではないか。
確信を持って、彼らを諫め抜け!
きみも男だ。
私は、ソマにこんなことは言わない。
男子なら、悪を諫めて難を巻き起こせ!
陰謀も暴力も、跳ね返すだけの力をつけろ。
私は“LIFE”のために流刑に遭ったことが誇らしい。
きみも誇りに思いたまえ!
つらい時があっても、生き抜け、そして一切の邪悪を打ち破れ!
いつでも手紙をよこしなさい。
師弟の勝利の再会は過去世からの契りだと思って、存分に戦っていこうじゃないか。』