第 06 章「使命」
第 02 節「春暁(しゅんぎょう)」
総司令官スヰフォスは遅れて構わないと言ってくれたものの、レヂョウは先に市を発った後団に追いついてでも早くビオム村に着いて、危険が去ったことを皆に知らせたかった。
隊員を休ませて自分は休まない彼である。
確かに疲れていたが、道々、馬車に揺られて寝ればいい。
隊員たちも隊長が休めるよう気を配ってくれた。
前団は正午頃、後団は午後2時頃、それぞれ休憩をとり、昼食にした。
市で買ってきた燃料に火をつけ、飯を炊いたり鍋を煮たりして賑やかに過ごす。
同じ隊の仲間は、訓練で打ち合う相手である。
油断すれば当然、負傷することだってある。
だが彼らは、互いにライバル視しても、試合での対戦相手は自分を高めてくれる存在として尊敬していた。
このような、規律でもなく、決め事でもない、LIFE騎士団の精神はどこから来るのか。
それは城下町でノイが自ら剣を振るい、一からLIFE騎士たる者の心得を教え込んだ時から根付き始めた。
ほとんど崇拝に近い形で王国に仕えていた彼らの価値観は、王国が自分たちの存在を切り捨て、機械による軍事力強化という路線をとった時から狂い、そして解雇されたことによって、王国の騎士道など実体がなかったと痛感したのである。
理念もない、哲学もない、権力などというものに、生命を賭けて仕えたところで、結局最後はお払い箱だ。
しかしLIFEの護衛騎士ノイは、確たる哲学を持つシェブロン博士とその弟子たちを、十数年来、守り続けてきているではないか。
元々、気高いもののために生きたいと願ってきた元・王国騎士たちは、ノイの存在と、その“生命”から発せられる一撃一撃に、熱いものを感じとった。
素直に入門する者もいれば、最初は反発する者もいた。
剣の腕を驕(おご)って、ノイを侮る者は挑戦してきた。
実際、常に勝てる相手でない者もいた。
そんな強者を前にして、ノイはもし実力で勝てないことがあったとしても、必ずその驕(おご)りだけは砕き、“LIFE”を教え抜くのだと決め、真剣勝負で戦った。
隙もない、力もこちらを上回る相手。
では、何をもって勝負するのか。
騎士として守ってきたものが、相手のそれよりも、絶対に正しいという確信と誇りである。