第 06 章「使命」
第 02 節「春暁(しゅんぎょう)」
買出しに出た後団の隊員から第九部隊長レヂョウに、市で黒い鎧の騎士を見たという情報が入ってきた。
レヂョウは明け方に2~3時間休ませていた隊員たちを起こして分散させ、各々馬を借りて、謎の人物を追跡するよう命じた。
混み始めた市場でも真っ黒い鎧はすぐ目についた。
やはり単独で行動しているらしい。
コダーヴ市を出て北上する様子だったので、まだキャンプには後団が控えているが、それよりも早く、第九部隊が動くことになったのである。
前団・後団の更に後方で敵と遭遇しなければならないとしたら、それだけ危険は増えるし、心細くもあった。
だが数時間すれば後から後団が追ってくるという安心感により、第九隊の彼らの心持ちを軽くさせていた。
どうやら黒騎士が取る行路はLIFE騎士団と少し別ルートをとっているらしい。
7人がまとまって動けば見つかりやすくなってしまう。
彼らはまるで獲物を遠巻きに追い込んでいくかのように追跡を続けた。
一時間が過ぎる頃、黒騎士は馬を下りて休憩させるようだった。
周囲の森には辛抱強く第九部隊の面々が隠れている。
そこで彼らは示し合わせたように、黒騎士の進行方向へと合流し、レヂョウ隊長が単独で馬にまたがり、接触を試みた。
率直に切り出すのがいいだろう。
「LIFE騎士団だ。
行軍中、幾度も見かけたが、何か用でもあるのか?」
黒騎士はマントを肩のアーマーにかける素振りを見せた。
これは鎧や武器を相手に見せるための、一種の威嚇行動である。
「腕の立つ騎士がいると聞く・・・。」
「皆、それなりに腕は立つ。
誰のことを言っているのだ。」
「水色の髪をした、まだ少年というが。」
「ああ、それならファラ殿のことだろう。」
「そうか、ファラというのか。
・・・前方にいるのか?」
「その前に、一体、彼に何の用があるのか。」
「我々は剣の力で最強を求めるだけだ。
彼の腕がどれほどか、知りたくてな。」
ここでレヂョウはファラの行方を知らせていいものか考えた。
LIFE騎士団の追跡を続けられては気味が悪いし、レボーヌ=ソォラでの作戦を邪魔されてもかなわない。