第 06 章「使命」
第 02 節「春暁(しゅんぎょう)」
早朝にキャンプを発つ第一部隊は、2回目の会議の後、総司令官スヰフォスを含めて床に就いており、すでに消灯されていた。
この日馬車で移動して来た前団・後団の各部隊は体をなまらせていたのに対し、彼らを迎え入れる準備のために一日中働いていた先発隊が一番疲れていたことだろう。
やがて前団も寝静まり、最後に風呂から上がった後団の4部隊もテントに戻っていった。
夜が更けて、起き出したのはキャンプの見張りに立つ第九部隊・レヂョウと隊員たちだ。
普段は商人が利用するだけで、時に盗難事件があったとしても、大抵は特定されて厳重に罰せられるため、自分の荷物は自分で守るか、商材は国営の置き場で管理されている。
しかし今回は、この国でほとんど例のない軍隊の移動であり、追っ手の存在が確認されたということは、秩序云々ではなく、ここでの戦闘さえ危ぶまれるのである。
腕に覚えのある隊員たちだけならさほど心配いらないが、他の商人たちを巻き込むようなことはどうしても避けねばならない。
目撃された追っ手は一人、黒い鎧に身を包んでいるという。
その人物も、夜はどこかで野営するに違いない。
本当にLIFE騎士団を追っているとしたら、どこかすぐ近くに宿所を取っているのではないか。
第九部隊は、常に二人を休ませながら、仲間のテント付近に一人、残る三人をキャンプ場の周囲に立たせ、市場全体、宿営している商人たちをも護衛するのだ。
隊長のレヂョウだけは周辺の探りに出かけた。
袖の中、ズボンの丈、衣服の内側には、捕縛用のロープなど、さまざまな道具を隠し持つ。
武器といっては小振りな攻守用の剣を佩くだけだ。
朝、リザブーグの町を発って、昼食のため車を止めた川の畔(ほとり)で、更に北上した午後の休憩時にも、緩やかに馬で移動してくる黒い騎士を見かけた。
レヂョウはそれが旅人でないことをすぐに察知した。
そして二度とも、馬の足を止めるようなトラップを仕掛けておいたのだ。
LIFE騎士団の中に、追跡を警戒している者、罠を用いる者がいることは、相手も気付いているだろう。
隊員を交代で休ませているが、彼だけは夜通しの警備にあたるつもりでいる。
30分に一度はキャンプ場に戻るようにして、それぞれの方角に単独のキャンプがないか、明け方まで見回りを続けた。