第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」
ソマは机上に明かりを灯し、手紙を書いていた。
流刑地にいるシェブロン博士宛てである。
「先生、大変なことになってしまい、幼少の頃からのご恩を、今どのように報ずることができるだろうかと、そのことばかり思っております。
フスカでパーティを分けられた時、初めて先生と別行動のご指示でしたので、今回はリーダーのタフツァを補佐するようにと仰いましたように、実際、タフツァにばかり頼ってしまい、先生にも彼にも甘えていた自分が悔やまれてなりません。
アミュ=ロヴァの魔法剣士ヤエさんという方が、毎日訪ねてくださいます。
モアブルグで知り合った、大切な仲間です。
巡査隊のゴーツさんや隊の皆さんも、ここでのLIFEの味方です。
先週、ヱイユくんが一度、来てくれました。
ルング=ダ=エフサでは魔法が力を失うとのこと。
彼も島へは近付けないそうですね。
私は牢に入れられて、初めてこれが自分の戦いであると知りました。
必ず、LIFEが正しいということを証明してここから出、一日も早く先生の元へ参ります。
だんだん温かくなってきましたが、どうかお体をお大事になさってください。」
外から様子を見ていたヱイユは、彼女の毅然とした姿に感銘を受けた。
そして手紙が書き終わったようなので、格子越しに、驚かせないように呼びかけた。
「ソマ。
安心しろ、全部、上手くいったぞ。」
今、心の中で師と対話して厳(おごそ)かな気持ちになっていたソマは、ハッと普段の彼女の思考に返った。
「こんばんは。
また来てくれたのね!」
ソマは嬉しくなって、格子の窓に両腕を乗せ、背伸びして近くに寄った。
ヱイユはそっと、彼女の頬に触れてやった。
少し、しめっている。
「私は強くならなくちゃ。
弱音を吐けばここから出してもらえるかもしれない。
でも、だからこそ、つらくてもここに居るわ。
LIFEは、“生命の尊厳”を脅かす一切のものと対決する。
絶対に屈したりしないから。」
ヱイユの手を取って自ら頬を寄せているソマは、それでもまだ心細いようだった。
「リザブーグでな、ノイさんが騎士団を作ったんだ。
彼らが北上中だから、マーラとの交戦で、LIFEらしい成果を上げてくれるだろう。」
「すごいわ。
子供の頃は、あんなに反対していた国が・・・。」
「王宮の中にはまだ敵も多い。
だが、騎士の失業が国家的な問題になっていた王国として、その彼らに新しい職を持たせ、周辺に農地を開拓したシェブロン先生の業績が認められている。
アミュ=ロヴァの要請でLIFE騎士団が遣わされた形だからな、両国の中に正しい認識を打ち立てていかなければならない。」
子供の頃のソマはもっと気が強くて、感傷に浸ったりはしなかった。
しかし、目の前には自分を慕ってくれる幼馴染の男性がいる。
戦いの中でしか相見(あいまみ)えることができないというのは、年頃の女性にとって過酷な試練かもしれない。
「俺はお前に会えるのがうれしいんだ。
中でも・・・。」
めずらしくはにかんでいる彼の表情は、ソマに幼少の頃を思い出させる。
「そう、さっきな、手紙を書いていた時のお前が一番よかったぜ。
もうしばらく、別々の所で戦うことになりそうだ・・・。
俺も先生の弟子。
お前も先生の弟子。
そうだ、こうすることにしよう、シェブロン先生の“祈り”を覚えているか?」
「ええ。
大宇宙にも“生命”があって、“LIFE”という尊厳性を具(そな)えているって・・・。」
「俺たちの“生命”と、大宇宙の“生命”を、共鳴させる“祈り”だって、言ってただろ?」
「うん。
私、やってるよ。」
「おお、・・・俺も。」
あまり大きな声は出せないが、二人は今の境遇も忘れて、どっと笑った。