第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」
“LIFE”とは、悠久にして永遠の物語。
ヱイユが言うように、“無明(むみょう)”という、一人一人の人間が持つ暗黒の中に、“LIFE”という「生き方」の“明かり”を灯すならば、その希望の灯は簡単に消えることはない。
時に暗闇が迫ってきて一点の灯を飲み込もうとする。
自身のエゴイズムを庇護(ひご)する排他性が首をもたげてくる。
人間の敗北とは、どのような理由であれ、“LIFE”という生き方を捨ててしまうところから始まるのだ。
「ヱイユ、僕は相手が誰であろうと、“LIFE”を蔑(さげす)む一念と戦い続けるよ。」
「先生も戦われている。
若いファラたちも戦っている。
ソマも。
俺はマーラの首領、悪魔使いフィフノスを引き受けておく。
それから、リザブーグでノイさんが育てたLIFE騎士団も、じきにこっちへ来るぞ。
必ず、戦乱を収めてくれるだろう。
お前たちへの嫌疑の無実を、先生の正義を証明してみせる。」
タフツァが心配していたことのほとんど全ては解消できた。
あとは、彼自身の闘争があるのみである。
ソマの元へ行く別れ際、ヱイユはシェブロンとノイを守る手も打っていると話した。
「アーダが眷属(けんぞく)を見つけてな。
小型の竜なんだが、ルング=ダ=エフサに着く頃だろう。
メゼアラムに捕らえると、あそこでは効力を失って消えてしまうんだが、捕らえずに、時々アーダと交信してもらうようにしたよ。」
これも到底、考えられなかったことだ。
自分が皆を守ると必死だったタフツァだが、今度は多くの仲間に守られているという頼もしさで、会心の笑みを浮かべて見送った。
再び、独房で寝台に横たわる。
テビマワでは無敵状態で戦えたのだが、殺し合う兵士と術士らの間にあって、自分だけ無傷ではいられないという気持ちから、彼はバリアを解いてしまった。
これによって受けた攻撃が、いくつかの傷となってまだ癒えずにいるのである。
背中に受けたのは打撲で、皮膚を見ると紫色をしていた。
兵士の剣撃を右肩でかわした時の切り傷も残った。
左の腕には、フィナモで受けた火傷がある。
また、マーラの術士が起こしたインツァラで、爆撃を受けて飛んできた様々な小さい破片が、彼の全身に傷を作っていた。
戦闘不能になった原因は複数の兵士に蹴倒され踏みつけられたことだった。
ヱイユにモアブルグまで運んでもらった後、ソマが手当てをしてくれたので、回復はしてきている。
タフツァは、ソマを想った。
彼の体に、初めて触れた彼女の手は、少し冷たかった。
しかし膏薬を塗ってくれる感触は優しかった。
心配して、いたわってくれた時の眼差し。
ヱイユのことが好きなら、それでも構わない。
もう一度、ソマと一緒に旅がしたいと、素直な気持ちが溢れ出し、彼女を抱きしめるようにして、そのまま眠りについてしまった。